Eric Benét (2016)
(★★★★★ 星5つ)
デビュー20周年を記念してのセルフタイトルドアルバム。前作”The Other One”はリミックス盤、その前の”From E To U Vol.1″は日本独自の企画盤だったので、オリジナルスタジオアルバムは2012年の”The One”以来。本作では懐かしのMC Lyteなどをフィーチャーしているが、殊更に周辺事情で飾り立てようとせず、かっちりした作りなのが良い。
完全にEric Benétとしての作風は固まっているようで、どこをどう切ってもEric Benétらしい感じだが、曲のバリエーションは豊か。スイング感の心地よいナンバーあり、しっとりしたバラードありで、飽きさせない。Eric Benétの作品を聴くと、R. KellyやJoeといったシンガーソングライター達を思い浮かべるが、表現力やソングライティングの懐の深さで言うと、個人的にはBabyfaceに比肩しうべきではないかと思っている。
そして、BabyfaceにToni Braxtonがいるように、Eric BenétにはTamiaがしっくりくる。このアルバムのデラックス盤には2曲目の”Sunshine”をTamiaデュエットに仕立てたリミックスが収録されている。これがいい! 買うならデラックス版を買うべき。
しかしその曲をボーナストラックとして別扱いするとしても、本当に図抜けたアーティストだと思う。R&B/ソウルのエッセンスにして極み。そしてある程度のポップさも備えていて、R&B/ソウル好きには外せない。(2016/10/12 記)
The Other One (2014)
(★★★☆☆ 星3つ)
(※日本のiTunesストアは上記作品はタイトルソングのミニアルバムのみ、フルアルバム取り扱いはなし)
2012年のアルバム”The One”のリミックス盤。リミキサーはThe Afropeansというプロジェクトグループなのだが、YouTubeでThe Afropeansを検索するとトップヒットはEric Benétのこのアルバムの楽曲。
リミックス内容はハウスリミックスではなく、ブレイクビーツやドラムンベースのような楽曲。アルバムはInderludeをはさみつつ、ノンストップの趣向で展開される。アプローチの仕方がディープで、リミックスとして確かに”The One”のイメージを刷新することには成功している。
が、俺には原盤の方がはるかによく聴こえる。果敢な挑戦という意味ではいいのだが、リミックスした結果のダンサブル感とか、エレクトリックな音ならではの楽しみが生じたとは感じられない。ミスマッチ感が浮遊感を感じさせる曲もあるが、多くはトラックとボーカルラインとがミスマッチのままで、違和感のみを残す。Eric Benétの別バリエーションを聴きたい気持ちとしては、こういうのでなく、新作を待ちたい。(2015/4/17 記)
From E To U Vol.1 (2014)
(★★★★★ 星5つ)
あんなにも素晴らしいオリジナル楽曲を送り続けていたのに、フルカバーアルバム。まさかのカラオケである。歌の能力が図抜けていることは承知だが、それにしてもEricよお前もか、と思いつつ聴いて、やはりやられてしまった。
これは曲選のうまさも勝利の一因だろう。今の40代半ば位の人が音楽に開眼した80年代の名曲が綺羅星のごとく並ぶ。しかも、R&B/Soulをあっさり脱ぎ捨てて。ToToの”Africa”、Christopher Crossの”Ride Like The Wind”、Culture Clubの”Do You Really Want To Hurt Me”、Journeyの”Open Arms”などなど。オリジナルアーティストが黒人であるのはラスト1曲の”Through The Fire”(言わずと知れたChaka Khan)のみ。それとてDavid Fosterの作曲なのだから。
しかし、うまい。原曲のイメージほぼそのままのアレンジもずるいな、と思いながら、アルバムと共に曲を口ずさみ、聴き終わるのはあっという間。まんまと策にはまった。…と思ったら、これは日本独自企画のアルバムだったらしい。どうりで日本人のハートを掴む選曲なわけだ。(2014/9/8 記)
The One (2012)
(★★★★★ 星5つ)
あまりにも自在に曲を作り、歌い上げる能力に圧倒される。例えばある種のディーヴァ、Patti LabelleやChaka Khanのような人達が声が出て出てしょうがないとでもいうように歌を披露するのと同じで、Eric Benétは音楽が楽しくて楽しくてソングライティングなんて屁でもないとでもいうかのように、自在に編み出し、歌う。
実際はそんなことはなく、苦労に苦労を重ねているのかもしれないが、あまりの出来の良さに、苦労なんてないのではないのじゃないだろうかと思えてくるほどの迸りなのだ。軽さも深さも、陽気もメロウも自由自在の驚嘆の才能で、とにかく聴き惚れる。このアルバムには愛娘Indiaとのデュエットも収録されているが、この人の才能は確実に娘にも引き継がれてるようだ。
Lost In Time (2010)
(★★★★★ 星5つ)
まろやかでのびやかなハイトーンボイスは、洗練された大人のR&B/ソウルのまさにはまりどころなのだが、この人のハイトーンボイスは徹底している。明らかにどの歌い手とも違うハリがあって、どこまでも伸びていき、自由だ。女性シンガーで歌い上げるタイプの人がもし性転換したら(変な喩えだが)、こうなるのではないかという感じがする。
そして、音楽自体がよく練られている。1曲目の”Never Want To Live Without You”などは、音運び(コードの変遷、メロディーの絡み方、音数等々すべて)がすばらしくて、聴いていて陶然となる。
ゲストボーカルも面白い人が多く入っていて、Eddie LeVert、Faith Evans、Ledisiといった人々は存分に個性を発揮しているし、ソロで聴いたときに恣意的な声色の出し方で好みでないなと思ったChrisette Micheleも、断然洗練度を増していて、はっとさせられる。他のアーティストを触発し、いいところを引き出す力も持っている人なのだ。ともかく、このアルバムは必聴。