ブックレビュー『同性婚 だれもが自由に結婚する権利』



(★★★★★ 星5つ)
同性婚人権救済弁護団(編)

俺は、「現在日本において同性婚ができないことは人権侵害であるとして、日本弁護士連合会に対して、法整備を行うよう政府その他に勧告する形で人権救済を求める」という、同性婚人権救済の申立人なので、この本は買わない訳には行かない。

帯には「同性婚を認めないのは、憲法違反」と文字が踊る。「両性の合意に基づいてのみ」と規定する日本国憲法第24条にてらし、同規定は結婚は家と家とのものであった明治憲法下の封建的結婚制度を脱し、結婚はそれを望む当事者の合意が実現させる個人間のむすびつきであると規定したもので、その制度趣旨に鑑みれば同性婚は憲法違反ではない、というのが、日本における同性婚の憲法解釈として主流だが、帯の文句はさらにもう一歩踏み込んだもの。詳しくは本編のコーナーにその解釈の理由がある。

全般に、この本に載っている内容は平明。このままの状態では社会生活上どんな不具合があるか、現行法(の運用)上ではどのような限界があるか、憲法や民法に同性婚と相容れない内容は規定されているのか、現行法を改正の必要はあるのかを、申立人から寄せられた切実な声とともに解説している。

当事者の俺としては、内容は総おさらいといった感じで、特に目新しいことはなかった。しかし、自分の中で自明のこととして思っている事例や考えが、こうしてまとめられて本として世に出、人の目に触れる機会となるのは、大変有意義だし、編者はこれを編集するだけでも大変な労力を要したことと思う。それについて、編者の弁護団に敬意を表したい。

ただ、この本への不満ではないが、実際上の動きとして、申立ててから、政府の公的機関の諮問に付されるわけでもない前段階としての日弁連内での動きがスローモーで、未だ新しい動きが見えてこないことには、フラストレーションを感じている。
一般に日本は従来からリーガルアクションが遅いと評されて、それを法曹の人数不足が一因であるとして、法科大学院制度などの司法改革で弁護士増につながったと記憶しているが、その結果は、弁護士達が食えなくなってきたというデメリット以外にあまり報じられず、司法が加速したという実感がない(個人的な感触としては、亡父が弁護士として仕事をしていた頃に弁護士は人口1万人に1人だったのだが、その頃と見ていて変わらない)。そのことと、この人権救済申立のフェーズが遅々として進まないのは、無関係ではないと思う。弁護団や、申立人の労苦が無駄にならないようにしてほしいものだ。それとも、東京オリンピックを前に人権法整備が外から要求される機運を狙ってアクションする予定があるなど、タイミングを図っているのだろうか?

話が少し横道に逸れたが、翻ってこの本は、日本国内で同性婚が認められるまでの、はじめの一歩として、貴重な歴史の記録たり得る。そう遠くない将来、同性婚が認められ、あの頃はあんな状態でよくそこまでエレベーションできたね、と振り返ることができればいいが、今を生きている人達にとって、時の経過は時に逼迫した問題ともなりかねない。早期の同性婚実現を望む。

この本は、現在の問題・状態を分かりやすくまとめたものとして、広く、できればLGBT以外の人達にこそ読んでほしいと思う。LGBT問題が自分に関係ないという人達にとっても、この本を読めば、これを契機として人権保障が法制度上なされる必要について、あたらめて認識できるだろう。

それから、付録として掲載されている、同性婚を全米で認めることとなったアメリカ最高裁判決の日本語訳は、資料として価値があるし、読んでためになる文章。単なる付録扱いはもったいないほどだ。論理的で明快、名文にしてアメリカ判決史上に残る美文で、読んで感動する。おさえておきたい。(2016/10/20 記)