#MYNAMEISJOETHOMAS (2016)
(★★★☆☆ 星3つ)
シルキーでスムーズなR&Bを届けるJOEの音楽は好きで、長年聴いてきた。ところがこれはどうだろう。不幸で陰鬱な感じがする。アルバムタイトルがツイッターのハッシュタグのようで時代を反映させているとするならば、音も不幸な時代の体現なのだろうか。
1曲目から、絞り出すような声の出し方に「おや?」と思う。無理やり個性を出そうとしているかのようだ。そんなことをしなくてもJoeはJoeで充分に魅力的なのに。後は、僅かな例外の曲もあるが、全般を通じてブルー。何をそんなに憂えているのだろう? または妙に今風の貧相な音。音もメロディーも納得が行かないなあと思ううちにアルバムのラスト、”Hello”では、今まで聴かせたことのなかったシャウトを聴かせる。そう、陰鬱なHelloといえば、あのAdeleの”Hello”だ。これがあのJoe?と耳を疑う。パフォーマンスの高さは認めるにしても、完全に蛇足だと思う。
今年は、ニューアルバムが出たと期待して聴くと、こういう結果が多かった。誰もが、「自分らしさ」を標榜しながら、自分は翼の折れた鳥だと訴えて同情でも買おうとしているかのようなプレゼンテーションを行う。Alicia Keysの”Here”、Lady Gagaの”Joanne”、UsherのHard II Love、Britney Spearsの”Glory”などなど。この#MYNAMEISJOETHOMASも、セルフタイトルドアルバムなのに(Joeは2000年に名盤”My Name Is Joe”を、2008年に”Joe Thomas, New Man”を出している)、どうにも煮え切らない。このJoeのアルバムを含め、アーティスト達はこれからの暗い時代を予兆しているのだろうか?(2016/11/22 記)
Bridges (2014)
(★★★★☆ 星4つ)
モータウンサウンドを思わせる少々懐古的な音で始まる一枚。美しくクラシックな音とメロディーで、フィリーサウンドなども織り交ぜてR&Bサウンドの歴史を辿るように曲が流れていく。どこかで聴いたような、というところが特色でもあり、それだけにオリジナリティーを若干感じにくいが、それでも誰がやっても同じというようなアイドル系R&Bシンガーとは一線を画す。Joeを聴き慣れている人ならスムーズでメロディックなところがJoeだと分かるだろう。
それにしても曲作りがうまい。「ソレ風」というサウンドテーマを与えられてそこからスタートするとしても、形にするのはすごく大変だろうと思うからだ。(2014/10/3 記)
Doubleback: Evolution Of R&B (2013)
(★★★★☆ 星4つ)
ずっと聴き続けている人で、この人のために今までレビューページを割いていなかったのが自分で意外。数々のR&B名曲を生み出してきた人で、洗練された世界ながらWill Downingほど静かではなく、セクシーながらR. Kellyほどセックス丸出しではないのがこの人の美点。この作品がオリジナルアルバムとしては10作目だが、安定の出来。
ミドルテンポの流れるような曲調になめらかな歌いっぷりで、気づけば一枚聴き終わっている。ソロで聴いた時には今ひとつ何をしたいのかと思わせたFantasiaもフィーチャーされているが、このアルバムではよいカラーを引き出されて、華を添えている。
アルバム全体の印象としては、欲を言えばもう少し曲ごとのバリエーションがほしいなと思う時もあるが、なんといっても一聴してJoeというこのスムーズなキャラクター、そして下品に落ちないとどまりどころなど、貴重なアーティストなので、満足。(2013/12/16 記)