音楽レビュー Usher


Hard II Love (2016)


(★☆☆☆☆ 星1つ)




Usherの音楽はシングルやそのリミックス、そして他のアーティストとの競演で折にふれて耳にしているのに、レビューページを割くのが今になった。そして残念なレビューを書かねばならないことが哀しい。

売れっ子であることは百も承知だ。才能もあるのだろう。しかしこの無味乾燥、虚無、そして不毛は何だろう。それらを表したかったのなら、大成功だ。題名からして”Hard II Love”なのだし。しかし、誰がやっても同じような音、歌の能力が全く活かされていないボーカルライン(メロディーでさえない)、延々と続くダルでスカスカのトラック。これを一枚通じて演られて誰が聴く価値があると思うだろうか。

一枚通じて、というのはやや正確ではない。というのは、ラストの曲”Champion”は映画”Hands Of Stone”のサウンドトラックナンバーで、これだけが突如としてスパニッシュ風のギターとメロディーで全く異質な空気を届けているから。この曲は多少聴ける。しかし、そのそぐわなさに、いかにも収録場所がなくてお尻にくっつけました、という感じのやっつけ加減が見てとれる。1曲目から直前の曲までの延々たる虚しさをかえって思い起こさせるだけで、救いとはほど遠いのだ。

これが今の音だよ、流行りだよ、というのは重々承知だ。単調なフレーズの繰り返し、愚痴のパレードがR&B/ヒップホップを席巻して久しいのは知っている。しかし、こういうのをメインストリームとして聴かされる今の聴衆は本当に不幸だなと思わされる。特に、感性の鋭い吸収期である10代20代がかわいそうでならない。そして、アーティストだけでなく、作曲家、アレンジャー、プロデューサー、その他マーケッター含め、こんなものを届けて金儲けをする大人の責任とは何だろうか、とも思う。ただひたすらに虚しい。(2016/9/28 記)