音楽レビュー Dionne Warwick


She’s Back (2019)


(★★★★☆ 星4つ)




往年の名曲の現代的解釈。彼女の昔に固執する人から評判は芳しくないようだが、俺はこれはこれでありと思っている。なぜなら、今はクラシックとなった曲も発表した当時は最先端のスタイルを表現したもので、今それをするなら今のスタイルになって当然といえるから。そして彼女は現代を生きる現役のアーティストであるからだ。

かといって、このアルバムは過剰に現代スタイルに振りすぎている訳ではない。品を保ったままリスタイリングされていて、傾聴に足る。Dionneに昔を求める人から考えると「今風」と捉えられるアーティスト達もフィーチャリングアーティストとして名を連ねる。Musiq Soulchild、Kenny Lattimore、Kevon Edmonds(Babyfaceの弟)、Brian McKnight等。「今風」といっても、名の通ったキャリアのある実力者ばかりなのだが。それらのアーティストもDionneに敬意を表したスタイルで、フィーチャリングアーティストの参加した曲は、今風というよりはむしろシックな仕上がりにさえ聞こえる。

むしろ、成熟しきってなお声を保っているDionneが今こうしてアルバムを発表し現役であることを喜びたい。晩年のAretha Franklinの歌の崩壊ぶりを想起するに、これは見事とさえいえる。聴いて、Dionneの偉業と現在に連なる軌跡を感じ、なおかつこれそのものを楽しむことのできる一枚。(2019/6/23 記)

Feels So Good (2014)


(★★★★★ 星5つ)

以前にアルバム”My Friends & Me”で様々なアーティストとのデュエットを披露してから8年を経て、再びデュエットアルバムがリリースされた。”My Friends & Me”に収録されていたCyndi LauperGladys Knightとの曲はこれにも収録されているが、他は新しいもの。Ne-yoやRuben Studdardとのデュエットが目を引く。
肝心のDionneの声だが、割といいコンディションに保たれていて、やや線は細くなったものの、来日公演の出だしの時のような危惧された感じではなく、ほっとした。Aretha Franklinのようなヨレ具合もない。良質な音楽が健在で嬉しい。(2014/12/24 記)

Now (2012)


(★★★★★ 星5つ)

名作の現代リアレンジ版なのだが、さすがに曲に恵まれていたDionne Warwick、過去の曲の焼き直しでも飽きさせない。このアルバム、”Now”と題されているだけあって、なお現役で歌い続けるDionneの気概を感じることができる。若干声が前作よりも若さを取り戻したような気がする。

安心してける内容だが、前作よりも退屈させないのは何だろうか? 2006年のアルバム”My Friends And Me”にも収録されていた”I Say A Little Prayer”が、新たにフィーチャーボーカリストとして過去作曲やアレンジを手がけてきたDavid Elliottを迎えて入っているが、これがなかなかいい。(2012/11/10 記)

Only Trust Your Heart (2011)


(★★★☆☆ 星3つ)

前作から3年を経て、ゴスペルからラブソングにカムバック。R&B色は薄く、(アマゾンでの発売元説明には『ベテランポップボーカリスト』と書いてあった)ラウンジっぽいリラックス感が漂う。さすがに老けたかと思わせるような声色が感じられ、少し懐メロっぽい感じもあるが、それでも一線を保っていて聴ける。が、もう少しスリリングな感じがあってもよかったかと思う。聴いていて眠くなるかもしれない。Dionneのアルバムの中では印象が薄い。

Why We Sing (2008)


(★★★★★ 星5つ)

本作はゴスペルアルバム。年を取った歌手の中には、ビブラートの音程の揺れが大きくなりすぎる人がいるが、歌唱力は安定していて、そんな不安感もない。楽曲もスムーズで無理にコンテンポラリーなスタイルに振ることもなく、すんなり聴ける。が、キリスト教徒でない自分には、Jesus, Jesusと連呼されても、今ひとつ入り込めない。

Dionne Warwickの最近を聴きたくて入手したが、どうやらゴスペルでないアルバムを聴いた方がよさそうだ。前作のポピュラーアルバム”My Friends & Me”の方がお勧め。(”My Friends & Me”にもマーチンルーサーキングの孫娘Cheyenne Elliottとのデュエットが入っているが、楽曲自体はかつてDionne WarwickがWhitney Houstonと自分のアルバム”Friends Can Be Lovers”でデュエットした曲”Love Will Find A Way”なので、馴染める)

My Friends & Me (2006)


(★★★★★ 星5つ)

豪華な自らのヒット曲を、これまた豪華なゲストボーカルアーティストをゲストに迎えてデュエットに仕立てたアルバム(デュエット以外に複数アーティストの曲もあり)。Gloria Estefan, Cyndi Lauper, Gladys Knightその他、女性ボーカル好きなら必携。年齢を重ねて「枯れ」が目立ってきつつはあるDionneだが、その「枯れ」はエージングされたヴィンテージギターのように味わい深く、説得力がある。

Friends Can Be Lovers (1993)


(★★★★★ 星5つ)

Burt Bacharachのあたたかみある曲”Sunny Weather Lover”でスタートするこのアルバムの聴きどころはなんといってもWhitney Houstonとのデュエット曲”Love Will Find A Way”なのだが、後に自ら複数回カバーすることになるその曲の良さもさることながら、良曲そろいで聴いていて気持がいい。特に当時活躍して個人的にお気に入りだったLisa Stansfieldの手になるタイトル曲は、すがすがしい雰囲気が空気を清浄化してくれるような曲だ。他にもStingの曲など、必聴。

Reservations For Two (1987)


(★★★★★ 星5つ)

当時石油会社か何かのコマーシャルソングに1曲目の”Love Power”が使われたように記憶している。豪華な男性ゲスト陣とのデュエットがこのアルバムの特色。迎えた男性陣は、タイトル曲のJeffrey Osborneの他、Smokey Robinson, Howard Hewett, Kashifなど。どのアーティストともDionneのボーカルは相性がよく、懐の深さを感じさせる。ラストの曲”No One In The World”はAnita Bakerのヒット曲。はりのある当時のDionneのボーカルがはつらつと締めくくる。

Friends (1985)


殿堂入り作品

Dionneの代表曲のうちの一つとなる1曲目、とにかくこれに尽きる。これは当時まだゲイ特有の奇病いう風評で偏見が根強かったAIDSチャリティーの曲で、人種や性的指向を超えた点でも画期的。Elton Johnの朗々たる声、Stevie Wonderのハーモニカ、Gladys Knightのソウルが見事に結束をみた名曲。他にもBurt Bacharachの美しい曲が揃い、その中でもChaka Khanが歌う”Stronger Than Before”をDionneがカバーしたのは聴きどころ。

この後、アルバムタイトルにはFriends Can Be LoversやMy Friends & Meなどがあるが、friendsというのはDionne Warwickのひとつのキーワードであるように感じる。