音楽レビュー Fantasia


Sketchbook (2019)


(★★☆☆☆ 星2つ)




Fantasiaは、いつの間にかビッグネームになっていて、これは彼女の持ち味をより深めるためのアルバムであるように思える。タイトルもそのような意味を込めたものだろうか。

とはいえ、時代で生き残っていくためには、多少そちらに色気を振りまいておくことも必要なのかもしれない。1曲目”History”や、T-Painをラッパーとして迎えた続く”PTSD”では、いかにも今の音な感じで、これを聴いて「ああ、やっちまった、この人もトレンドに迎合か」と危惧されたが、以降はFantasiaの粘っこい声質を生かした曲もあったほっとする。が、”Holy Ghost”は完全に駄作で、誰がやってもいいような、メロディーに特徴のない無味乾燥さ。Mama Dianeをフィーチャーした〆のしっとりと美しい”Looking For You”で少し救われた思いがしたが、結果として、聴きたい曲と捨ててもいい曲とが同居する感じで、俺個人としては、アルバムを通じての満足感は薄い。

名声が確立された後でも売れなければいけないのはわかるのだが、これでいいのだろうか、アルバムタイトルにそぐう内容であったのかというのが正直な感想。前作”The Definition Of…”からの進化点はどこなのか、測りかねた。(2019/10/20 記)

The Definition Of… (2016)


(★★★★☆ 星4つ)




前作でちょっと散漫なイメージで「まだ自分はこれというのが定まっていないように聞こえる」と書いたが、その作品から3年が経って出たこのアルバムは「Fantasiaの定義」と題した、「これぞ自分」という定義付け。さて、どれどれ、と聴いてみると、音楽のエッセンスを追求しようとする本質的な姿勢が見られるように感じる。

余計なこけおどしは一切なし。オーケストレーションもエレクトリックな音はあまり使われず、生を大事にしている。少しクラシックとも言えるような構成の曲もあるが、懐古趣味ではない。そして、前作でやや恣意的と感じられた発声は自然なものになり、彼女の潜在能力の高さが実力として顕在化した。”Ugly”のエッセンシャルで普遍的な音作りと後半のコーラスワークを伴った歌い上げは白眉。

これを聴いて感じるのは、R&Bも二極化してきているのではないかということ。即ち、EDM的であったり虚無的で短調なフレーズを繰り返すヒップホップスタイルのような、マーケティングに基づいた時代に擦り寄るものと、そうした姿勢に背を向けてより深く音楽を掘り下げて行こうとするものと。一時期、前者が席巻している様に本当にR&Bの未来を案じたものだが、最近は後者が盛り返してきて、正直なところほっとしている。Fantasiaには後者を牽引する者として、活躍を期待したいところだ。(2016/8/29 記)

Side Effects Of You (2013)


(★★★☆☆ 星3つ)

FantasiaはフルネームをFantasia Barrinoという。アメリカン・アイドルから出てきたんだとか。コケティッシュでちょっと癖のある声の持ち主で、最近のシンガーのスタイルとしては珍しい。新人かと思ったら、調べるとファーストアルバムの発表は2004年。今まで自分のアンテナにひっかからなかったが、この第4作目になるアルバムの滑り出しは好調で、スタートからビルボード2位とか。

この類のアーティストの売り出し手法として有名アーティストをフィーチャーするのが定石だが、そうした手法はKelly RowlandとMissy Elliotが”Without Me”という曲でフィーチャーされているくらいで、あとはラッパーが1人いる程度。どうやら独力で勝負する人のようで、曲作りにも名前を連ねている。

さて曲の印象だが、あれこれやっていてちょっと散漫。アルバムタイトル曲の”Side Effects Of You”なんかはなかなかいい。”Without Me”はまんまRowlandっぽい。ちょっとおしゃれ風サウンドがあるかと思うとスカスカの音のもあったりして、まだ自分はこれというのが定まっていないように聞こえる。何だかいろいろと惜しいな、と思いながら聴いていたのだが、過去の作品を聴くともっと印象が変わるのだろうか? なんともいえない感じだ。(2013/5/17 記)