音楽レビュー Lady Gaga


※Tony BennettとのデュエットアルバムについてはTony Bennettのページを参照

Joanne (2016)


(★★★☆☆ 星3つ)




日本の一般ニュースで来日が取り上げられたり、徹子の部屋に出演したりしていた狂騒的なブームがあったのは、音楽に興味のない人でも記憶にあることだろう。その熱狂を経て失いかけた自分をTony Bennettとのデュエットで取り戻すことができたと語っていたLady Gaga。デビュー前にプロデューサーから性的関係を強いられたなどの告白もしたので、業界的に生きづらいのではと危惧していたが、このアルバムが出た。

狂騒を過ぎて、このアルバムではよりエッセンシャルなLady Gagaを打ち出し、地に足の着いた様子を見せる。つまり分かりやすく言うと地味なのだが、アメリカンロードムービーのサウンドトラックを思わせるような、少し遺哀愁を感じさせるギターをバックにブルースロック調の曲があったりして、聴くと、ひょっとして彼女は曲作りの手法も根本から変えたのでは、と感じる。

豪華絢爛でエキセントリックな彼女を期待していると、このアルバムを聴いて少し拍子抜けするのだが、これがドライブなどで流しているとなかなかいい。そして、聴き込むと、堂々たるボーカルスタイルを披露していたりして、アーティストとしてのパフォーマンスはむしろ上がっているように思う。

どんなアーティストも、成功を手にして煩悶した後、ターニングポイントが来る。このアルバムは、「あのGagaがジャズを?」といった目新しさとの点できらびやかであったTony Bennettとのデュエットアルバムとはまた違って、本人がソロアーティストとして何をやっていくかを見つめ直したものであると思わせる。好みか好みでないかという点からいうと、自分の好みの音ではないので星3つとしたが、アーティストとしての価値はいささかも下がっていない。むしろ、ここからの彼女にこそ、注目していきたい。(2016/10/22 記)

Born This Way (Int’l Deluxe Edition 2011)


(★★★★☆ 星4つ)

音楽界のみならず、経済や政治にも影響を与えるようになったLady Gaga、ForbesではThe World’s Most Powerful Celebritiesとして特別ページが設けられている。リリース前から本アルバムの成功は約束されていたようなものだ。聴いてみると、先行シングルの”Born This Way”はすでに耳馴染んだ感じですっと入ってくるし、宗教的に物議をかもすことを見越しての”Judas”も、音楽的には純粋なポップに聴こえる。他の曲も歌は安定しているし、曲の骨格がしっかりしているので、常識的に聴こえる。

となると、どうもインパクトが薄いと感じられてしまうところもなくはない。それは、リスナーが刺激に慣れてしまってもっともっとと思ってしまうのと、あまりにもGagaイズムで通されているので、Gagaらしいなと思ったとたんに、どの曲もその予想の範囲内に収まってしまうからだろう。ビッグスターのつらいところではある。

聴いたのはリミックスを含む2枚組デラックス版。素材がいいと料理のしがいもあるといったところで、リミックスはどれも踊れて使える感じ。ミュグレーのショーで先行した”Scheiße”が一番よかった。ドイツ語の音を楽しむあたり、センスの鋭さがうかがえる。

Takeover (2010)

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(★★★★★ 星5つ)

言わずと知れた世間を席巻するポップスターのノンストップ盤。ルックスやパフォーマンスの奇抜さに目を奪われがちだが、メロディー運びが意外にきちっとしていて、覚えやすく、また歌詞も深い。要するに、ポップスのつぼを抑えた曲作りがしっかりなされていて、そのあたりの基本ができているのが、Lady Gagaの人気を支える要因の一つであるのだろう。

こうしてノンストップで聴くと、それぞれの曲の粒立ち(キャラクターがはっきりしていること)がよく分かり、かつ次々とLady Gagaワールドの展開を楽しんでいける。ポップスターらしいポップスターはBritney Spearsが最後かと思っていたが、Lady Gagaの存在は、ポップミュージックの希望だと思う。あとは、マーケットが彼女を食いつぶさないように願うばかりだ。