音楽レビュー Will Downing


Black Pearls (2016)


(★★★★★ 星5つ)



タイトルのように、真珠の輝きを持つブラックミュージックの名曲カバー集。カバー集はよくあるが、これが面白いのは男性ボーカリストでありながら女性アーティスト達の曲を選んでいること。そして何と言ってもその曲選。女性R&B/ソウルアーティストが好きで聴きこんでいるなら、「ああ、あの曲を持ってきたか!」と驚きと喜びを同時に感じることができるだろう。

まず冒頭の”Everything I Missed At Home”でやられる。あのCherrelleの名盤”Affair”に収録されていた曲。アルバム前半のダンス押しからクールなバラード系に移行する後半への転換ナンバーでシングルカットもされなかったのだが、この隠れた名曲を選び、冒頭にもってくるのがにくい。

その他もOleta Adamsの”Get Here”がこちらは軽妙なアレンジで収録されていたり、Randy Crawfordの”Street Life”があったり、The Jones GirlsのというよりはそのIncognitoによるカバーでJocelyn BrownとMaysaのデュエットで有名な”Nights Over Egypt”があったり。

しかし何より個人的にやられたのは”Meet Me On The Moon”。Phyllis Hymanの”Prime Of My Life”に収録のこれまたシングルカットされていない曲で、音数を極力抑えた洗練の極致のようなしっとりしたバラード。個人的なソングリストにも入れている曲が新たな魅力を伴って表れたのが嬉しい。本ページ下部にある2010年のアルバム”Lust, Love & Lies”レビューで奇しくも「Phylis Hymanあたりが好きな人なら、「ああ、これこれ!」と、飛びつきたくなるだろう」と書いており、そのPhylis Hymanの曲が採用されたあたり、俺の観察眼もまんざらではないなと思う。(笑)

そんな訳でまたWill Downingにはやられっぱなしなのだった。(2016/7/18 記)

Chocolate Drops (2015)


(★★★★★ 星5つ)




キャリアも長く、一貫して大人の音楽、しかも都会の夜を彩るアダルトコンテンポラリーを創り続けるWill Downing。アダルトコンテンポラリーという言葉自体がもう過去のものと思われるが、それでも順調にアルバムを発表し続けている背景には、それだけその音楽を支持する人がいるということだろう。

そんな訳で今回のアルバムもブレず。アルバムジャケットの趣味はイマイチだが、中身は良い。面白かったのはWhitney Houstonの初期の名曲”Saving All My Love”をカバーしていること。元は家庭を持っている男と叶わぬ恋をする女の不倫歌だが、立場が逆転すると何だか不思議な気がする。もちろん歌唱に文句はない。

その曲だけが少し軽めの曲調で、他は徹底してスローでメロウ。歌詞もセクシーで、このチョコレートは大人のビタースイート。(2015/11/10 記)

Lust, Love & Lies (2010)


(★★★★★ 星5つ)




ソフィスティケイテッド路線を邁進するWill Downingだが、”Lust, Love & Lies”と題して大人の愛をアルバムに仕立てた本作では、副題に”An Audio Novel”とある。ストーリー仕立てという訳だ。耳に心地よい音だけに聴き流されがちが、中身でも聴かせようという意図か。

音作りの方は、いかにも都会の夜に似合う感じで、2曲目の”Feelin Alright”や3曲目の”Get To Know You”あたりは、90年代前半のKashifを思わせるような、少し時代回帰したリズム。その辺も聴いていて、好きだったし、タイムレスな魅力があるので、時代錯誤的もしくは旧時代的とは思われず、いいと思った。後半の曲は、音数も制限して、洗練の極みに挑戦している。この辺りは、Phylis Hymanあたりが好きな人なら、「ああ、これこれ!」と、飛びつきたくなるだろう。

子どもじみた音遊びばかりが氾濫する世の中にあって、この人の音楽は救い。都会のオアシスにたどり着いたら、そのオアシスは極上のバーだった、といった印象。

Classique (2009)


(★★★★★ 星5つ)




レコードレーベル称するに、’Prince Of Sophisticated Soul’であるWill Downing。確かに洗練の極みである音は、長年耳を楽しませ続けてきている。
本作は、近年ジャズ寄りであった音が、R&B/ソウル寄りになり、コンテンポラリーな色を強めている。聞き流されがちな音作りのなかにも、Will Downingの確固たる世界が確立されている。ひょっとしたら洗練とは孤独なのかもしれない、そんなことを思わせさえする1枚だが、Phil Perryも”Baby I’m For Real”で参加し、両人の音楽が好きな俺にとってはますます嬉しい内容になっている。