音楽レビュー Alicia Keys


Here (2016)


(★★★☆☆ 星3つ)




Alicia Keysを久しぶりに聴いた。才能はひしひしと感じるのだが、どうも自分の好みに合わなかったアーティストの一人だ。政治的な考え方には共感できる所が多いし、チャリティーの姿勢も立派、才能もあるとなると、この人の音楽が自分にフィットしないのは、もう「好み」という主観的で曖昧なファクターでしかない。

先般のLady Gagaの”Joanne”でも感じたが、Lady Gagaのみならず、かつてきらびやかだったアーティスト達ははこのところ原点回帰が多いようだ。今回のAlicia Keysも故郷への思いや社会の歪みについての思索とともに、より自分らしくあろうとする、虚飾を排したエッセンシャルな作品づくりをやってのけた。アートワーク(もはやジャケット写真と言わないのが悲しい)にもそれは表れていて、アーティスト名もアルバムタイトルも入っていない。聴くとボーカルは、時に粗削りとも思えるような生の響きが伝わってくる。曲は、まるで風景を写真で切り取ったかのような、これまた加工のない構成。どこか、解放を目指しながら根底の苦悩が垣間見えるような淋しさも感じる。

ありのままを表現するのは自由だし、自分らしくあろうとするのも当然肯定されるべきものとは思えるのだが、あまりにも生のまま放り出されてきて、それが人に聴かせる結果にまで責任を取っての所業なのか、と思うと、そこがどうも引っかかる。抑圧されてきた自分に気がついてそれを解放したいという気持ちは、アーティストとして充分な動機づけたり得るだろうが、本人のストレス発散はいいにしても、これは作品としての真なる昇華といえるのかどうか。

アーティストの生き方と作品の完成度、社会との関わり、音楽のエッセンスとは、と、色々なことを考えさせられたアルバム。(2016/11/8 記)

The Element of Freedom (2009)


(★★☆☆☆ 星2つ)

才能は感じるのだが、Alicia Keysの音楽スタイルは、いつも自分の好みにフィットしない。”The Diary of Alicia Keys”も”As I Am”も2、3度聴いたきり、ついぞ聴き返す気にならなかった。そして本作も。

ポロポロ音の構成要素が他と調和しないで、感情が行き所を失っているかのような音楽がずっと続き、聴いていて、気分がふさぎこんでしまう。Aliciaが、声の失われたWhitney Houstonに書いた”Million Dollar Bill”は、制限されたボイスレンジでよく書いたものだと思ったが、あの曲もぶっきらぼうなベースで始まるイントロにはうんざりだった。

そう、「ぶっきらぼう」という言葉が、このアルバムにはよく似合う。愛想笑いの一つもすればいいものを、延々愚痴られている感じ。これももう聴き返すことはなさそうだ。