音楽レビュー Anthony David

Hello Like Before: The Songs Of Bill Withers (2018)


(★★★★☆ 星4つ)




Bill WithersはおそらくアメリカのR&B/ソウルアーティストにとって、源泉のような存在なのだろう。そこから流れ出た音楽は、時代を下って今に引き継がれ、ソウル音楽の勃興期と今をその軌跡を河のように繋ぐ。このカバーアルバムを聴いて、ああこの曲もあの曲もこの人の手になるものだったのかと、あらためてその偉大さを知らしめられた。恥ずかしながら、音楽を聴いていても、それがBill Withersという偉大な人のものだということを知らなかった恥をここに告白する。

Gladys Knightがアルバム”At Last”でカバーしていた”Granma’s Hands”(2001年)。アルバムタイトルソングの”Hello Like Before”は、Vanessa Williamsのアルバム”The Real Thing”(2009年)でいいなと思って聴いていた。”Hope She’ll Be Happier”はといえば、自分の中のスタンダードであるSweetbackのファーストアルバム”Sweetback”(1996年)でこれでもかと聴いていたではないか。
Bill Withersの音楽は、そうして時代を横断しながら、水のように変幻自在にアーティスト達の色に染められつつ、俺の音楽生活に知らずのうちに染み込んでいたのだ。

そしてこれらのBill Withersの曲をカバーしたAnthony Davidのこのアルバム。もともとAnthony Davidを俺が聴くようになったのは、2011年の”As Above So Below”で、Tears For Fearsの”Everybody Wants To Rule The World”をカバーしていることに興味を持ったから。なので、今回カバーアルバムと聴いて、「オリジナルソングはないのか」とさほどがっかりはしなかった。アーティストの中には、カバーでもって自分のオリジナリティーをよりうまく表現して、自分を昇華させる人がいる。Whitney Houstonもそうだったではないか(知らない人もいるかもしれないが、”I Will Always Love You”はDolly Partonの曲だし、あの”The Greatest Love of All”すらGeorge Bensonがオリジナルだ)

さて、Anthony Davidにフォーカスすると、名曲の数々を見事に自分のものにしている。理知的でありながら、曲のリリカルな部分も存分に表現しており、優れたアーティストであることが分かる。俺のようにBill WIthersのオリジナルを知らなかった人にも、Anthony Davidの作品として楽しめるアルバム。(2018/9/30 記)

The Powerful Now (2016)


(★★★★☆ 星4つ)




このアルバムと下記の”As Above So Below”の間に”Love Out Loud”というアルバムがリリースされているのだが、そちらは未聴。

さて、これだが、地に足の着いたかっちりした感じと、まとまりの良さがいい。知性的なイメージは相変わらず。”As Above…”で「節操のないバリエーション」と言ったが、それは訂正しなければならない。このアルバムを聞くと、アーティストとして進むべき道やビジョンがはっきりしていることが伝わってくる。

こうしたリジッドなイメージの作品を聴いていると、音楽自体が素晴らしいと感じられるのみならず、それにインスパイアされて、自分の生きる姿勢なども見直そうという気になってくる。そうした心への働きかけがある音楽こそが真の音楽であり、それを生み出す者だけが「アーティスト」と呼ばれて然るべきと思わされた。どちらかというと地味だが、繰り返し聴く価値が充分にある。(2016/10/4 記)

As Above So Below (2011)


(★★★★☆ 星4つ)

このアルバムを聴くまで恥ずかしながら存在を知らなかったのだが、Anthony DavidはIndia.Arieとのデュエットで2009年にグラミー賞のBest R&B Performance by a Duo or Group with Vocalsにノミネートされた人なのだという。

周辺情報はともかく、早速聴いてみた。1曲目はWill Downingばりのソフィスティケイテッドサウンドでやられる。これで押すのかと思うと、今風のR&Bサウンドがあったり、Tears For Fearsの名曲”Everybody Wants To Rule The World”のカバーがあったりして、(カバータイトルは”Rule The World”となっている)悪く言うとちょっと節操のないバリエーションで、一枚通しで聴くとちょっと戸惑ったが、何でもできる才能の豊かさを感じるし、アルバムタイトルや曲選からは知性を感じる。

恐らくこれからサウンドスタイルが固まっていく人なのだろう。注目して行きたい。

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