音楽レビュー Phil Perry


Breathless (2017)


(★★★★★ 星5つ)




優れたボーカリストがコンスタントに音楽を届け続けてくれるのはレアケースになってしまった現在、Phil Perryがアルバムを出し続けてくれるのは本当にありがたい。

このアルバムではR&Bというよりもむしろスムースジャズに近いアプローチを見せる。そのスムーズさは、あまりにも引っかかりどころがなくて拍子抜けするほど。リラックスムード漂うこのアルバムは、何気なく聴き流していると、耳に残らない人もいるかもしれない。
が、本質は非常に濃密で、コントロールされたボーカルの妙を堪能できるし、バンドドラック構成も吟味されている。それを感じさせないほどに丸く磨き上げていて、ブラン・ド・ブランのシャンパーニュのトップキュヴェのよう。

そして、カバー曲集にせず、またオリジナルの曲で勝負するところにもアーティストとしての矜持を感じる。洗練された大人の音楽が好きなら、聴いてみるべきアルバム。(2017/5/2 記)

A Better Man (2015)


(★★★★★ 星5つ)

優れたアーティストであり、その歌の上手さから稀代のボーカル職人といってもいいPhil Perryが、また新しいアルバムを発表してくれた。ジャケット写真は今までもやや年齢を感じさせる写りだが、声の素晴らしさはそのままに、大人の極上音楽を繰り広げている。

他のボーカリストとのデュエットももちろん難なくこなすが、この人の面白いところは女性ボーカリストとだけでなく、男性ボーカリストとの掛け合いも、お互いの良さを引き出す。このアルバムには俺の大好きなHoward Hewettとのデュエット曲が入っている。ややHHのボーカルが抑え気味な気がするが、いい曲。こうした自分好みのセッションアーティストをチョイスするところもまたにくい。(2015年2月20日 記)

Say Yes (2013)



(★★★★☆ 星4つ)

相変わらずの突き抜ける艶やかな高音、職人芸ともいえる歌いまわしには文句のつけようがない。Phil Perryはセッションシンガーのように、時々他の俺好みのアーティストのアルバムで声を聴くことができて、そこでも一聴して分かるキャラクターを持っているのが素晴らしい。

本アルバムはカバー集で、”The Long And Winding Road”なんかは曲が有名すぎる選曲であるのが惜しい(ゆえに星4つとした)が、それぞれの曲は完全の本人の世界に料理されている。安定したプロの仕事。

Ready For Love (2008)



(★★★★★ 星5つ)

前作”A Mighty Love”が、いわゆるリメイクというかカバーだったのに対し、本作はオリジナルの作品集。(注:カバー曲も収録)美しい声、美しいメロディ。聴いていてほっとする一作。こういう人がメジャーのレコード会社でないがゆえに世に知られにくいというのは、本当に惜しい。今の時代、本物を探し出すのは、自分のアンテナに頼るしかないのかもしれない。

A Mighty Love (2007)


(★★★★★ 星5つ)

カバー集なのだが、さすがプロの歌い手、”Ride Like The Wind”, “Everything Must Change”, “Déjà Vu”といった有名曲をしっかり自分のものにして、独自の世界を展開している。

どこまでも伸びる高音、シルキーなボーカルは90年代から健在。そこに円熟味から来る深い味わいが増して、このアルバムを単なる名曲リメイク盤ではないものに仕上げている。

そこら辺のチャラチャラしたR&Bとは一線を画す、大人の聴くべき本物の音楽。