ブックレビュー チャールズ・ブコウスキー


パルプ


(★★★★☆ 星4つ)
破天荒という麗句よりもメチャクチャといった方がいい、破壊と暴力と無茶な設定の探偵小説。ハードボイルド仕立てだが、本人も、読む方もその設定のバカバカしさを前提としている。読みながら、例えば「マーズ・アタック!」のようなキッチュさと荒唐無稽さを楽しみつつ、それがハードボイルドであるという奇妙なハイブリッド感覚を味わうのだが、それが癖になる。そして、登場人物の会話の端々、主人公の叙述の一つひとつにリリカルで新鮮な表現を見出し、いちいちブコウスキーの天才ぶりに驚嘆する。

そして、これはブコウスキーの遺作なのだが、晩年にさしかかり、自身もまたアルコールに溺れメチャクチャな生活をする中で、それを作品に投影しつつも、天性といってもいい才能を惜しげもなくこの作品に注ぎ込み、かつ、晩年ならではの洒脱をも感じさせる。まったくもって恐ろしい、誰も到達し得ない(到達したくもない)境地に入ったことを感じさせる作品。人間誰しもが、大小はあれ、また、それを実行に移すかどうかの可能性の高低こそあれ、どこかで破滅への欲求を抱いているだろうが、「これってどっかでお前やりてえんじゃねえの?」と、作品を見せつけられることで、こちらの脳みその中を見透かされているような感じがする。

まさにこれこそがクリエイティビティー。そして、まさにこれこそがブコウスキーというどうしようもなさ。「人生なんて所詮屁のようなもんさ」と最後っ屁をかまされた感じだ。嫌いじゃない。うん、嫌いじゃない。(2019/8/22 記)

ありきたりの狂気の物語


(★★★★★ 星5つ)

読むのに骨が折れる。というのは内容が難解なのではなく、延々繰り返されるどうしようもない日常の集積の中にきらりと光るエッセンスを拾い出すのは、砂金集めに似た茫漠さだからだ。
アルコール、ドラッグ、セックスにまみれていて、おまけに金欠でといったところから来るこれから「物語」を流れとして感じようとすると失敗する。その集積自体が物語であり、その中にはっとさせられる詩情を見出すことがこれを読む目的であると、読み手は腹をくくっておく必要がある。

ビート文学にあるような疾走感はここにはない。あるのは、疾走の末のexhaustedな無力感、無力でありながらも果てることのない欲望にドライブされる人間の捨てきれない生への渇望、そうした淀みに巧妙に織り込まれた文学的美しさ。バロウズのような幻想でなく、ケルアックのような不毛でなく、カポーティのような自分を汚そうとしない綺麗事でなく、もっと有機的な、生臭さの中にある旨味を醸造するブコウスキーは天才といって良いだろう。そして、彼らのようにどうしようもないのだ。(2014/11/9 記)