夜の樹
(★★★★☆ 星4つ)
「世の中には人を不愉快にさせるのが得意な人間がいる。そしてその類の人間が才能を持つと一番厄介なことになる。」と↓の『叶えられた祈り』のレビューで書いた。その印象はそのままに、様々な破滅を描き出した短篇集。
どれも、うんざりさせられるような理解不能の人の悪意や、どうしようもない運命や、いつの間にかはまり込んでしまって抜けない不愉快な環境やらの設定がすごい。そしてこれまた主人公についても、シンパシーを抱きにくい、言い換えると、「その人なら巻き込まれたゴタゴタから運を落としてしまっていっても構わない」と読者が自分の中に潜む悪徳や苛立ちから思ってしまうようなキャラクターで描き出されているのも巧妙。
どこをどう取っても、まるで人の汗で湿った寝具のベッドに寝かされているような、あるいは誰彼かまわず突っかかってくる人に街の曲がり角を曲がった途端に出くわしてしまったような、急激に世界に取り込まれた絶望や、後ろ暗いネガティビティーが支配する世界の展開。これはやはり、カポーティでなければ書けない。
読後感は良くないし、読んでいてうんざりもするのに、カポーティ自身のいやらしさや、腐敗していくアメリカ社会や、人間のサガというものを深く感じさせられて、その意義は認めざるをえない。いやったらしくてしょうがないのに才能や華のある人間がはびこる様を見た時に感じるモヤモヤを破滅の形で文学に落とし込んだらこんな感じか、という負の描写の見事さ。
カタストロフィーではなく、グズグズ崩れていく人間の落ち具合が一番悲惨であることを今もってリアルに感じさせる。この前読んだ車谷長吉と洋の東西をはさんで対照すると興味深い。(2012/10/31 記)
叶えられた祈り
(★★★★☆ 星4つ)
世の中には人を不愉快にさせるのが得意な人間がいる。そしてその類の人間が才能を持つと一番厄介なことになる。そんな1人がカポーティだ。
人から疎まれることを知り抜いたうえで書かれたこの社交界暴露小説は、未完成に終わっているが、ねたは尽きずいつまでも続く話ゆえに、逆に言うとどこで終えてもいいような話だ。割れると鋭く人を傷つけるガラスの鋭さを持った作品で、内容はgossipyだが、比喩の美しさや、徹底的にクールな主人公の視線がそれを芸術のレベルに仕上げている。自分が破綻してゆく過程にあって人の神経を逆なでする内容は、カポーティの心の偏向を考えさせずにはいられない。