ブックレビュー ウィリアム・バロウズ


麻薬書簡 再現版

アレン・ギンズバーグ共著)


(★★★☆☆ 星3つ)

「書簡」というタイトルだが、中身は実体験に題材をとった小説的読み物。書簡そのままではなく、どうやら推敲もなされているらしい。これをどのような書物に分類するか(小説なのか、それ意外なのか)は、酩酊状態のように輪郭が曖昧だから、結局どこに分類してもしっくり来るものではない。
ヤク中バロウズが究極のドラッグを求めて南米に行き、少年買春は繰り返す、ドラッグを試しては結果に満足せずに毒づくといった、人によっては許しがたい背徳と不毛の羅列がその内容となっているわけだが(私も少年買春はバロウズの行動のなかで最もどうかしていると思う)、文書も例によってのグシャグシャ。結局のところバロウズのロクデナシ加減をこれでもかと見せつけられて読者は疲労困憊するのだが、それでもどこかにバロウズの才能の圧倒的存在感を認めざるをえない気分になる。

バロウズのその突き抜けた変態さに比べると、やはりアレン・ギンズバーグは品が良いといってもいいほどで、マイルド。バロウズがハードドラッグなら、ギンズバーグは脱法ドラッグ程度の感じに見える。なので、これは共著で名前が併記されているが、バロウズの書籍コーナーに分類した。

それにしてもそこまで精神作用をドラッグに求めて探索の旅に出るとは、生理感覚の追求なのか、精神主義なのか、わからなくなってくる。とにかく、何もかもがグシャグシャだ。なのに読み続けてバロウズに興味がつきないのは、バロウズ自身の本分がドラッグ的なのでは、と、読んで思った。強い印象を残して読了した点では星4つだが、決して決して勧められる内容ではないので、星3つ。

ソフトマシーン


(★★★★☆ 星4つ)

バロウズといえば『裸のランチ』や『ジャンキー』だが、これも名著といえば名著。ただし、小説として見ると、小説にストーリー性を求める人には当惑が待っている。『裸のランチ』のような文章のコラージュが延々と続くので、意味性や、時系列に沿った展開を求めると、どんどん読みづらくなってくる。

しかし、散文詩のようなものだと思って眺めると、面白い。物理的にバラバラにした単語を並べ替えて自動的に文章を作ったり、折りたたんで目の前に生じたものをそのまま文章にしたりといったアバンギャルドな手法でできているが、注目すべきなのは、それを極めて上手くやっているというこだ。
それは、素材の選び方がよほど注意深かったのだろうと推察される。何故なら、そこに手をかけなれば、この本で展開されていて全体を支配しているSFファンタジーとゲイファンタジーとドラッグの混沌世界は、作り出される前提が成り立ち得ないからだ。

そして、めちゃくちゃに見えて、登場人物はきちんと律儀に再度出てきて「ああ、前に出てきたな」と分かるし、描かれているセックスファンタジーは、ランダム化された中に存在する重複が、現実世界のセックスも基本的にストロークの繰り返しで快楽を導き出すものであることを想起させる。万華鏡を覗いて、くるくる回転させるごとに、要素がでたらめに並んでいて限定された筒の中にある破片だけで構成されているのに展開が感じられるような、あれを見ているような感覚がするのだ。そのあたりの、ランダムに至るまでの用意周到さが、これを模倣しようとして成功しなかったバロウズ的なものと、真打バロウズとの違いを生じさせるのだろう。

バロウズの世界を知るには、これも読むべき一冊。しかし、文化的な頭だけで文芸評論しようとする人が、これを読んで理解しようとすると、とても難しいだろう。決して勧められないがドラッグを体験した人や、なろうと選択してなるものではないので、これも容易には選んで体験することのできないゲイセックスや、ディープなアルコール体験をした人には、文化的文芸評論のアプローチを試みる人よりも、作品理解のアドバンテージがあるのかもしれない。読みながら、偶然体験したこと・してしまったことが期せずして世界を拓くということもあるのだなあと思った1冊。