音楽レビュー Corinne Bailey Rae


The Heart Speaks In Whispers (2016)


(★★★★☆ 星4つ)



オーガニックには要注意である。それは飲食物に限ったことではない。ナチュラルイメージからオーガニックと称されるが、その実、演出や歌い方が恣意的だったり、雰囲気作りが過剰だったりで、そのアクが採り込めたものではなかったという経験が少なからずある。Erykah Badu然り、Jill Scott然りで、オーガニックというと、ソウルに関する限り、俺は用心して聴いている。フリーソウルと半ば被るジャンルであるオーガニックソウルの中でも、フリーソウル寄りでは聴きやすいものもあって、Adriana EvansIndia.Arieはお気に入りだし、フリーソウル寄りでなくともAmel Larrieuxなどはクールで、時に複雑で実験的なスタイルを持ち、好きなアーティストだ。

そんな訳で、オーガニックソウルの人を聴く場合、期待と不安が相半ばする気持ちで聴くのだが、Corinne Bailey Raeは今までの作品を聴く限り、好きか嫌いかではちょうど半ばの存在だった。一聴するとスムーズでありながらその実一筋縄では行かない個性はギリギリ飲み込めるアクであり、Sadeほど夜の匂いはしないが、気だるさが昼の草原でのピクニックには向かない。ちょうど日本のある女優にも、自然派のようなイメージでCMに採用されているがどっこいその実中身はクセモノだなと思っているのがいて、そのイメージと重なっていた。

前置きが長くなったが、そうした訳で、アレルギーが起きないかどうか危惧しながら恐々聴いてみた。3作目となる本作は、よりスタイルを深化させ、カラフルでバリエーション豊かになった。洗練されたジャズのように心地よくゆったりした気分にはさせてくれない。それは耳を引きつけ続ける力でもあり、イギリスのあの晴れ切れない風土も影響したものでもあるだろうが、俺個人としては少しイライラさせられるところでもある。田舎にドライブに行って田園風景にさぞ空気が旨かろうと車の窓を開けたら肥料の臭いがうっすら漂ってくるような、「オーガニック」なリアリティー。「それこそオーガニックよ」と押し込まれればそうかなと納得もするのだが……。

そんな訳で、Corinne Bailey Raeの楽曲・歌唱とも完成度は高く、そこから先、好きか嫌いかは個人の自由だが、どれも、聴きながら複雑な思いがするという印象は変わらず。ファンにはたまらない待望の一枚だろうという理解はできた。(2016/5/15 記)