音楽レビュー Gordon Chambers


Surrender (2016)


(★★★★★ 星5つ)



これはもう4枚目のアルバムなんだそうだ。しかしこの(いい意味で)クラシックで、安定した曲作りと表現力はどこから来るのだろうと思ったら、長い長い、そしてきらめく名曲の数々を手がけてきたキャリアを持つソングライターなのだった。あらためてそんな出だしで書いているのが恥ずかしくなるくらい、気がつけば彼の名を知らずとも曲を聴いてきていた。Anita Bakerの”I Apologize”、Brownstoneの”If You Love Me”、Angie Stoneの”No More Rain”等々。もうこの3曲を挙げるだけで、R&B/ソウルファンなら「嗚呼!」と感嘆の声を上げるだろうが、Discogsにあるリストを見ると目眩がしそうだ。何故今までこんな人物のセルフアルバムを見過ごしてきたのだろう。

さて、そんな曲作りのキャリアを知る前に、フィーチャリングアーティストに聴いた名前があってこのアルバムを聴くことにしたのだが(従ってこのレビューは『長い物には巻かれろ』方式で盲目的に褒めるものではない)、個人的に気になったのは、ビッグネームのLalah Hathawayよりも、ソロアルバムが上質で気に入っていたCarol Riddick。その曲”Imaginary Lover”は大人のムードを湛えた深い曲で、黒っぽさもふんだんの曲。Carol Riddickのアルバム”Love Phases”のレビューに「Anita BakerやWill Downingあたりが好きなら即座に気に入るだろう」と書いたが、前掲のとおりAnita Bakerの曲もGordon Chambersの手によるものならば、Will Downingにも複数の曲を提供していて、「ああ、やられた」という感じ。

フィーチャリングアーティストのないソロも、もちろん上質。バリエーション豊かな構成、美しいメロディーラインが正統派の音楽に浸らせてくれる。

ともかく、その曲作りの確かさのみならず、シンガーとしての能力の高さも堪能できるアルバムで、良質なブラックミュージックを探しているなら必聴。(2016/8/10 記)