映画レビュー ジェサベル (Jessebelle)



(★★★☆☆ 星3つ)

色々な恐怖要素を寄せ集めた結果、発散してしまった印象。交通事故に遭い歩くことのできなくなった主人公ジェシーが父親に連れられ、湖のほとりにある実家に戻る。ジェシーは自分の幼い頃に死んだ母親の部屋に通され、そこで母親のビデオメッセージを発見するが、ビデオ中、母親がタロット占いで不吉な予告をする。不可解な現象が起こり、妙にリアルな悪夢を見、自分の世話をしてくれる高校時代の同級生と謎解きに出ると…というストーリー。

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家で起こる怪奇現象は『パラノーマル・アクティビティ』のよう。製作がPAを手がけた人だからそういうものか。バスタブで寝て悪夢を見るのは『エルム街の悪夢』。ビデオで不吉なメッセージはご存知『リング』(メッセージ性は異なるが)。湖のほとりが怖いのは『13日の金曜日』以来の伝統。そしてブードゥーの呪術が怖いのもこれまた伝統的。
しかしどれもが中途半端。怪奇現象は『パラノーマル・アクティビティ』自体が怖くなかったので、それをスケールダウンした感じでもっと怖くない。悪夢も「あ、こっから夢か…。長いな、まだ夢か…。で、夢から覚めたら何ともないんだろうな」と分かりやすく冗長かつお約束すぎて、スリルがない。
ブードゥーはうまくすれば恐怖感を演出する核になり得たのに、食い足りない感じ。呪術に関係する人達がジェシーと同級生をもっと恐怖に陥ればいいのに、浅い。それに、せっかくParish(教区)内という設定をしておきながら、閉鎖社会の怖さも伝わってこない。
グロで行くなら父親の死のシーや手術シーンなどはもっと鮮明に描き得たのに、そこのシーンは現代のホラー映画としてはマイルドすぎてインパクトに欠ける。

ところで、水道からタールが出てくるあたり、そして赤ん坊がキーのあたり、Jessebelleという名前は、Sadeのアルバム”Promise”を思い起こさせる。”Promise”には黒人の赤ちゃんが生まれて秘密が露呈する”Tar Baby”、そして綴りは違えど発音の似た女性を主人公にした”Jezebel”が収録されている。この映画は案外あの名盤からインスパイアされたのでは?

さて、ネタバレはこれ以上書かないが、せっかく「ありそうでなかった」ストーリーを作っているのに、肝心の怖さが伝わってこないのが、全般を通じてフラストレーションを感じさせる。ただ、ストーリーはまずまずなので、退屈はしない。怖さがイマイチなので、ホラーマニアには物足りない。ポスターが一番怖い。

(2016/8/12 記)