音楽レビュー Tony Bennett


Love Is Here To Stay (Tony Bennett & Diana Krall 2018)


(★★★★★ 星5つ)




下記Lady Gagaとのデュエット時にさえ驚嘆したのに、92歳にしてまたアルバムが出た。そして今度はDiana Krallとのデュエット。ジャズシンガーとのデュエットについては、聴き手は手厳しいだろう。ジャズの聴き手は、意地悪な人が多い。ライブに行くと、どこか文句をつけてやろうと身構えているかのような人もいる。あれを考えると、おそらくポップ歌手としてのLady Gagaとのデュエット時よりも、レコーディング時に気分がピリっとしたのではないだろうか。

しかし、出来上がりは洗練そのもの。Diana Krallも、ソロ名義では少し雰囲気を出すのに恣意的かなと思われる歌い方をすることがあるが、御大とのデュエットでは、まるで祖父相手に無邪気にはしゃぐ子供のように純真だ。Tony Bennettについては、さすがに少し老いを感じるところはあるが、もう音楽を知り尽くしている体での力の抜けぶりで、円熟を重ねた画家がひょいと筆を取って軽く線を引くように、そこには長く経験を積んだ者のみがなし得る洒脱が感じられる。

今年Aretha Franklinが亡くなったが、正直Arethaの晩年のアルバムは、聴けないほど辛い出来だった。それに比べるとTony Bennetttは超人的なコントロールによる歌いぶりで、このアルバムはポピュラー音楽界に歴史を刻む一枚だろう。(2018/11/9 記)

Cheek To Cheek (Tony Bennett & Lady Gaga 2014)


(★★★★★ 星5つ)




“Duets”と”Duets II”の素晴らしさはまだ記憶に鮮明だが、その中でも光っていたLady Gagaとのデュエットが、今度はアルバムになって出てきた。2002年にはK.D. Langとのデュエットアルバムを出しているTony Bennettだが、その時には意外な人選に驚いたものの、シルキーな出来が出色だった。

結論から言うと、このアルバムも秀逸。何たる正統、何たる美しさ。Lady Gagaは、これだけ聴けば若手で頭角を現してきたジャズ歌手に聴こえる。そして御歳88歳(!)のTony Bennett。声の伸びやかな瑞々しさ、制御されコンディショニングされたまさにプロフェッショナルな歌声は生ける奇跡。デュエットはそれぞれの持ち味を活かしつつも抜群のコンビネーション。

デュエットの曲だけでなく、それぞれソロでの曲も収録されていて、しっとりした”Ev’ry Time We Say Goodbye”でのLady Gagaのリリカルな表現力、”Sophisticated Lady”でのTony Bennettの円熟味は、それだけでも説得力がある。Tony Bennettの凄さを感じることができるのはもちろん、ARTPOPで頓挫しかけたかに見えてLady Gagaにはアーティストとしての底力があると安心させてくれるのだ。音楽における真のエンターテインメントとは何たるかを知らしめる一枚。(2014/10/21 記)

Duets II (2011)


(★★★★★ 星5つ)

Tony Bennettが何人たるかと前作のすごさは下記の”Duets: An American Classic”を参照してもらうとして、これはなんと満85歳にして企画されたデュエットアルバムの第2弾。ビルボードトップ200初登場第1位でのチャートインは、彼のキャリアでも初のことだとか。1作目の成功に気を良くしての2匹目のどじょうか、とナメてかかると完全にノックアウトされる。

共演はさらにジャンルも様々に豪華なメンバーになったが、85歳の「伝統的な」エンターテイナーがこのメンバーと演るかと、驚きしかり。Sheryl Crow、Faith Hill、Queen Latifahに今年(2011年)早逝したAmy Winehouse、などなど。そして1曲目はLady Gaga。K.D. Langは気に入られたのだろう、本作にも続いて登場。音楽の出来が珠玉という本来の要素の他に、エンターテインメントは楽しく、自由で、差別がなく、心を豊かにするもの、という姿勢を読み取れて、その主張が心地よく、聴いて幸せな気分に陶然となる。

Superheavyの豪華さに圧倒されて、今年のベストアルバムはSuperheavyだなと思っていたが、このアルバムには脱帽だ。

Duets: An American Classic (2006)


(★★★★★ 星5つ)

Tony Bennettはアメリカンエンターテインメントの創生期から活躍する生粋のエンターテイナー。といっても馴染みのあるのは若くても50代以降ではないだろうか。俺も恥ずかしながら、「誰だっけな、名前は聞いたことがあるような?」と思って、このアルバムを聴き始めた。

聴く気になったのは、まずYouTubeで次作に収録されたLady Gagaとのデュエットを見て、調べるとそのアルバムは企画として2作目で、前作(これ)があるのだと知ったからだが、まずその顔ぶれが面白い。全部の名はここでは挙げないが、Barbra StreisandにElton JohnにK.D. LangにGeorge Michael。もう、ゲイにとってはガツンガツン来る顔ぶれ。

音楽はしっとりと正統派ながら、そんなラインナップで自分のアルバムを作ってしまうTony Bennett、もう高齢のようだが、と調べると、このアルバム発表は彼の満80歳を記念してリリースされたものだと! しかし声は朗々としていて、高齢者にありがちな、ビブラートが音程を超えることもない。もう感服しっぱなしで聴いていて、このアルバム唯一のソロ曲が流れた。”I Left My Heart In San Francisco”、邦題は『霧のサンフランシスコ』。ああ、この人かと膝を打った。そして、これだけのバリエーションを見せながら、共演アーティストの総徒花的散漫さは微塵も見せず、すべてがTony Bennett色にまとまっていることに納得した。なんともすごいアルバムだ。