音楽レビュー Raphael Saadiq


Jimmy Lee (2019)


(★★★★☆ 星4つ)




Tony! Toni! Toné!のメンバーであった頃から彼自身の音楽を聴いている。他にも、彼によって書かれたりプロデュースされたりした音楽も、多く聴いてきたはずだ。彼の手になると知っているものも知らないものも。Babyfaceほど派手派手しくはないが、間違いなくR&B界の至宝である。

あらためて新作を聴くと、Tony! Toni! Toné!時代と相通じる作風の曲もあるものの、メインはミッドテンポで内省的な内容。というのも、アルバムタイトルは彼の亡き兄の名を冠しており、その亡くなった兄と、ドラッグの依存症で亡くなった人とのイメージを重ね合わせて作られているからだ。従って、同じ内省的とはいっても、以前Raphael SaadiqがプロデュースしたSolangeの”A Seat At The Table”とは、内容や趣向が異なる。

ご存知の方も多いと思うが、Tony! Toni! Toné!は彼と、彼の兄といとこから成るグループだった。そのグループに加わらなかった兄の名を今になってアルバムタイトルにつけたということは、かなりの思い入れだろう。しかも私的な。しかし、私的なところに留まらず、今問題になっている依存症をテーマに、理解を訴え、しかもそれを聴かせるアルバムに仕立てるというのは、すごい才能だと思う。途中のInderludeや、曲の終わり方、詩の朗読風など、日本人からすると「ノリ」では聴けない難解な部分もあるが、価値あるアルバム。蛇足だが、Aretha Franklinの1986年のアルバム”Aretha”の1曲目も”Jimmy Lee”、そしていなくなったJimmy Leeを懐かしむ曲だった。同一人物ではないとは思うが…。(2019/9/23 記)