映画レビュー 1984 (Nineteen Eighty-Four)



(★★★★★ 星5つ)

1949年に発表されたジョージ・オーウェルの小説『1984』の映画化。歴史すら修正される監視社会のデストピアを描く。主人公は真理省記録局に勤務し、日々歴史を修正している。言葉は支給される辞書から選ばねばならず、支配者への批判の統制のため、ネガティブな言葉は使用を禁じられ、badと言わずungood、too badと言わずdouble plus ungoodと言うように指導されている。世界は超大国3つに分断され、苛烈な戦争の中にあり、自分のいる世界の情勢が厳しいのは戦争に勝利しなければならない抑制のため、そして統治者ビッグブラザーのためと伝えられるが、本当に戦争をしているのか、ビッグブラザーは存在しているのか、それらも真実かどうか疑わしい。主人公は荒廃し、疲弊しきった日々の暮らしの中でふとあり方に疑問を抱く…というのがあらすじ。

映画はタイトルと同じ1984年に発表された。CGのない時代に、レトロフューチャーの世界を見事に描いている。思想警察の服装はナチスを思わせ、思想検閲は日本の特高を思わせ、配給制の共産体制社会の中、矯正された自己批判と、自己批判を認めた物を晒し者にするのは、中国の文化大革命を彷彿とさせ、指導者への絶対的忠誠を誓わせ、造反者と目される物を思想教科の部屋に送るのは旧ソ連のスターリニズムや北朝鮮の如し。そして何より、すべての場所にマイクがあり、モニターを通じて指令が伝わるのは、現代のネット社会のようだ。ナチス+戦前日本+中国文化大革命+旧ソ連+北朝鮮+モニタリング社会が何を生じるか。そのおぞましい様を、この映画は見事にビジュアライズしている。

無論、筋運びは暗く、エンディングはなお暗い。主人公を演じるジョン・ハートは、ルックスを含め適役。演技は恐ろしいほどで、俳優の底力を感じる。
映画としての演出も、とても興味深い。レトロフューチャー的世界で、(実際の)1984年当時にはある程度機械化社会を推し進めて描けただろうに、それを敢えて否定して、歴史を修正するための該当の新聞記事は紙が丸められてチューブで送られてき、それを破棄する時には焼却炉に入れるなどのアナクロニズムな演出が効果大。
そして、そうした手法を取ることで、映画の中の世界が如何に困窮しているか、社会を前進させるために一番投資されていて然るべき省すらその有様であることを表すのに成功している。

サウンドトラック Eurythmics “1984”


殿堂入り作品




この映画を語る時、サウンドトラックについても触れておく必要がある。Annie LennoxDave StewartによるユニットEurythmicsがサウンドトラックを担当している。が、映画のエンドロール中にもきちんとクレジットされているにもかかわらず、映画中で使用されているのは”Julia”ただ1曲のみ。したがって、これはサウンドトラックとは言うが、この映画とのメディア違いで音楽によって1984の世界を表現した、別の創作物といってよい。

音は、映画がレトロフューチャーであったのに対し、当時最先端のエレクトロサウンドで攻める。シーケンスサウンド、ドラムマシン、そしてAnnie Lennoxのサンプルボイスが交錯する。そこに思索的な歌詞が絡み、エレクトロサウンドであって高い精神性を持つ、唯一無二の世界観を作り上げている。Eurythmicsのディスコグラフィーの中でも重要な作品。