映画レビュー アンナ・カレーニナ (Anna Karenina)



(★★★★☆ 星4つ)




トルストイの名著を読んでいない身としては、手っ取り早く内容を知れると思い、映画を観ることにした。無論、多少の内容の違いはあろうが。

まず、映画ならではのオリジナリティーを発揮している演出が意欲的で面白いと感じられた。場面を、近世の舞台のように仕立ててあって、そこで様々に物語が展開されるのだ。そして、その光景を目にする物が舞台の上にある装置からという場面が時折あるのも興味深かった。「社交界においては自分をいかに演じるかにかかっていて、貴族的生活もまた芝居がかっているものだ」というアイロニーを直接視覚化したこの手法は、賛否両論あろうが、俺としては好感。

主人公の表情をKeira Knightleyは、うまく演じている。苦労を知らぬ社交界の花としての、ちょっと嫉妬を買うような人形役、人間味を取り戻した時の美しさ、下卑たエゴで振る舞う時の憎々しい表情、自分を見失った人間の哀れさと醜さ、それをきちんと分けている。「単なる美人女優だったらこういう撮られ方は嫌だろうな」というところも、役に献身して見せているのは、体当たりといってもいい。

全般にはより広い層にアピールするように、過度に芸術的にはなりすぎず、映像的なサービスもあり、貴族女性のヒラヒラ大好きな人向けへのファンタジーも満足させるべく、しっかり取り込んでいるのが上手い。イギリス映画で、俳優陣もすべて英語を話す人達なので、そこは常に帝政ロシアへと脳内変換しながら観なければならないが(途中の言葉遊びのパズルなどはアルファベットでやられると、とてもその変換に負荷がかかるが、致し方ないところだろう)、それでも時代考証もきちんとなされていて、全体としての違和感は少ない。

ロシア文学というとそれだけで身構えてしまう人も多いだろうが(俺もその一人だ)、登場人物の人間関係も分かりやすいし、スリリングで、飽きさせるところがない。これを観たのは正解だったと思える映画。(2018/9/11 記)