飲食店レビュー レストランNémo(フランス料理 港区南青山6丁目)


(★★★★★ 星5つ)

レストランNémoは根本憲一オーナーシェフが敬愛する自然をテーマに、日本の食材を活かした独創的なフランス料理を提供するレストラン。シェフは特に魚料理に愛着があるのだとか。2023年現在5年連続ミシュラン1つ星。

住所は南青山だが、六本木通りすぐのロケーション。ひと月前に訪れたレストランTakumiからは距離1kmほど。近距離にミシュランの星付きレストランが複数あるのだから、東京都はすごい所だ。そして飲食店をやる人達にとっては厳しい。

建物の地下1階で、入り口の看板はシンプルでおしゃれ。なのだが、その階下に位置する犬のしつけ教室ファミリーナガーデンとかいうショップのセンスのかけらもない看板が目立ってしまっていて、少々可哀想。しかしNémo自体はセンスも評判も上々とのことで、気を取り直して入店。

レセプションコーナーはなく、すぐ店内が見渡せる。店内はすっきりしていて、カジュアルなカフェレストランにでもありそうな設え。しかし、集っている客は誰もがリラックスしながらもきちんとおしゃれをしていて、さすが店の格とセンスに合致している。

コースは1種類のみ。ワインやノンアルコールカクテルとのペアリングもあったが、我々は例によって例のごとしで、シャンパーニュを。豊富なリスティングで迷うのも楽しいが、ピエール・ペテルス レ・シェティヨン2015がオンリスト、しかも3万円!何たるお得、と、こちらに決定。レ・シェティヨンは人に知られたくないシャンパーニュだったのだが、やはり瞬く間に人気が上がり、今ではネット通販でもそんな値段では買えず、そもそも品薄。店での提供なら、倍額ほどはしてもおかしくない。

さて、料理だが、当然複数技法や様々な食材を1つの皿に盛り込むモダンフレンチらしい品々。そして、アミューズで何となく始まるのではなく、1品目からきっちりした皿、しかもメインとして出てもおかしくはない堂々の出来栄え。しかし、重たくはなく、コースを通じての味のバランス感ももちろん考えられている。自家製のシンプルだが食感がよく丁寧に作られたパン、料理を出す演出、驚き、全てが考え抜かれており、しかしあくまで客へのもてなしを念頭に置かれている心地よさ。事前に公式サイトのメッセージを読んでから行ったが、まさに看板に偽りなし。

サービスも非常にハートフルで、コミュニケーションも豊か。次の皿に移るペースも申し分なし。料理をきちんと自分の中で理解して説明しているので、安心感がある。シャンパーニュはカーブから出してから以降も、細かく温度調整をしてくれて、グラスも通常のシャンパーニュグラス以外でもサーブする提案をしてくれ、そうした細やかさも嬉しい。

コースにフレンチのいわゆる三大高級食材(フォアグラ、トリュフ、キャビア)は使われていなかったが、それでも食通には嬉しい材料が惜しみもなく投入されており、料理にステータスだけを求める人には理解されづらいだろうが、本質を突き詰めようとする人には喜びが感じられる。フレンチを食べ慣れた人にぜひ訪れてほしい店。
(2023/9/4 記)