飲食店レビュー Jean-Georges Tokyo (フランス料理 港区六本木ヒルズ)


(★★☆☆☆ 星2つ 本当は★☆☆☆☆ 星1つ)

俺の誕生日でパートナーに連れて行ってもらったのだが、残念なレビューを書かねばならない。久しぶりに外れの店に当たってしまった。しかも大外れである。このレビューは書かないでおこうとも思ったのだが、パートナーもこの店を残念に思いつつ「事実は事実として記録しておくべき」と言うので、了承を得て、忌憚なく書く。

ロケーションは最高。ステータス性を感じるならここ、という立地は、六本木ヒルズけやき坂。1日1組、最上コース限定というコーナーの個室に通されると、眼下にはジョルジオ・アルマーニのブティック。店の2階にあるテーブルはこの個室だけ。エクスクルーシブな感覚という点では、他にそうない。特にイルミネーションのあるこの季節は格別。

で、コースはスタートするのだが、サーブするのは年若い女性2人。接待向けの人選か?と思う。まあ仕事をきっちりするなら老若男女関係なし、とは思うのだが、顛末は後述の通り。

まずシャンパーニュをオーダーするのだが、希望のジャクソン・キュヴェ746は探しに行ってきてややあってから戻って来、切らしていると。そこでアグラパール・テロワール・ブラン・ド・ブランをオーダー。コース内容とマッチさせるためソムリエに相談しようかと思ったが、このフロアーにはソムリエは不在。乾杯を始めるのには「まだかな」と思わせるほどの時間を経てボトルが開けられるのだが、個室外の見える箇所にあるサーブテーブル上でやるものの、手元が心許ない。

さて、コースの概略説明はなく、アミューズからスタート。なのだが、メニューの説明をする女性のたどたどしいこと。一生懸命暗記してきたものを頭の中から引っ張り出してきている様子だが、つっかえつっかえしていて、聞いているこっちがハラハラする。これが、この1品でなく、コース通じてずっとなのだ。まだ市井のカジュアルレストランの方が優秀な人はたくさんいる。ここのレストランのサーブ係は素人ではない。ド素人だ。

スタートはバターナッツかぼちゃのスープだが、バターナッツかぼちゃの元来持っているほっくりした甘みのある風味よりも、隠しきれない隠し味のヨーグルトの酸味の方が優っている。

続いてのイナダを使った寿司風、そしてシグネチャーであるキャビアは面白かった。

次のカルパッチョ風マグロ(ユッケ風か?)は、マグロが麺状に切られているのは面白いのだが、シャンパンビネガーと生姜醤油の風味が強すぎて、マグロの風味が生きていない。

そして待つ。まだかなと思うくらい待つ。で、出てきた5種類のきのこは辛子菜と合わせられたサラダ仕立てなのだが、きのこの味の凝集が足りず中途半端。旨味を引き出しきれていない。

そしてポワソンを待つ。待つ。待つ。トラウトサーモンが出てきたのだが、これはパートナーは残してしまった。パッションフルーツのソースがまるでパッションフルーツジュースのように甘く、魚と全くマッチしていない。火入れも凡庸。昨今のフレンチレストランは、いい所はどこも最大限の神経を使って魚の火入れをしてくる。生のようにねっとりしているが身にはぎりぎり火が通っていて皮は香ばしいなど。それが、トラウトの身のシルキーさが失われている。

まあまあだったのは続くヴィヤンド。しかし、肉の由来についての説明はなし。

アヴァンデセールのルビーチョコレートコーティングの文旦ジュースはチョコレートの風味が希薄。かぼちゃのメインデザートは造形物が硬すぎ。ミニャルディーズは凡庸。

器が退屈なのも気になった。ずっと同じ意匠で、飽きる。一部の器は、提供される料理を食べるのに適した形状ではなかった。

とまあ料理は散々だった挙げ句、もう1エピソード。途中トイレに立つとアクシデントがあった。ウォシュレットが故障していて、用を足した後、手を洗っていると洗浄機能が誤作動して水が飛び散り、ズボンを濡らした。その次第を言ってタオルをもらおうとすると、平織りのナプキンを渡してくる。吸水できないので、普通のタオルを持ってこさせるが、何なんだろうかと。そしてマネージャーを呼ぶと、いかがいたしましょう、アイロンとか?とのたまう。ここでズボンを脱げというのだろうか? 機械の故障はしょうがないとしても、対応がまるでなっていない。ちなみに、トイレの中は石製の巾木が割れていて、そのまま隅に寄せてあったが、状態からして、昨日今日ではない様子。

本当は星2つもやりたくないのだが、誕生日で連れて行ってもらって大枚はたいてもらい、またロケーションに免じて2つ。トイレの不手際の詫びにと、土産でBillecart Salmon Resereve Brutをもらったが、総合的に見て生半可なシャンパーニュでは埋め合わせようもない体験だった。

要するに、高級ごっこなのだ。高級ってこういう感じだよね、という形ばかりで、内実が全く伴っていない。真の高級店に行くと、ガストロノミーの楽しさを体験させてくれ、新たな知識と驚きを授けてくれる。そうした提供は、この店ではなかった。ただただロケーションと、本国の名前のみを借りた形。Jean Georges本人がこの様子を知ったら憤死するのではないかという惨憺たる有様だった。

パートナーは今回の店の惨状をしきりに俺に謝り、かえってパートナーには申し訳ない気持ちがした。挽回のため、近々他の店にリベンジで食事に行く予定だ。

(2023年11月23日 記)