飲食店レビュー レストランTakumi(フランス料理 港区西麻布1丁目)


(★★★★☆ 星4つ)

レストランTakumiは「組み合わせの妙を正確に理解し、楽しめるレストラン」をコンセプトに掲げるフランス料理店。2023年現在で5年連続ミシュラン1つ星。今回、特に記念日等ではなかったのだが、何か旨いものを食べたくて、パートナーと訪れた。シェフ大槻卓伺氏の「料理の意図が客にちゃんと伝わるようにしたい」との思いがあって、皿ごとに説明のカードが来る演出がある。これを「説教臭い」とか「旨けりゃいいんだ」と思う向きの人も世の中には当然いるだろうが、我々は料理を食べに行く時、どういう食材がどのように扱われ、どういった意図でこの結果になったのかをできるだけ理解したいと思うので、ここの店のコンセプトには賛同できる。

六本木駅から渋谷方面に歩くこと6、7分、六本木らしい車通りを目にしなら角を曲がると、白い壁のミニマルな店構えがある。店内もシンプル。入ると受付カウンターはあるが、簡素で、すぐに店のメインダイニングがあって、グレーホワイトの大判タイルで床も壁も仕上げた空間が広がる。ダークブラウンのウッドで貼られたアクセントウォールもあって過度に禁欲的ではないのだが、これは料理に集中できるための空間だなと分かる。

ソムリエから飲み物の案内があって、ワインのペアリングコースもあり、組み合わせの妙を掲げるレストランでそれは魅力的ではあったのだが、我々はそう酒に強い方ではないので、ソムリエと相談し、例によってコースを通じてシャンパーニュにする。こういうコンセプトの店では、基本オンリストなのは相性をある程度考えられた物ではあるだろうが、酒との相性をソムリエに相談するのは重要。今回はBruno Paillard Dosage Zéroを選択。メーカー曰く「寛大で贅沢な白色系統の果実や生アーモンドのトップ・ノーズに続き、グラスでの開花と共にチョコレートやトーストのアロマが表れ、次第に新鮮なラズベリー、スターアニス、栗のコンフィの香りが組み合わさります。」という香りも豊かで、ドサージュゼロでも厳しくはなく、バランスの良いシャンパーニュだった。

それはそうと、肝心の料理だが、コースは1種類のみ。最初にカードが配られ、料理の説明がある。場合によっては使われているハーブのサンプルがコルクの蓋付きボトルで運ばれてきて、料理に用いられる要素の香りを確かめることができる。

料理はどれも現代のフランス料理にふさわしい細かで複雑な技法を組み合わせてあり、そして日本というロケーションを活かした素材選びとフランス料理らしさもあって、精密に組み立てられたもの。発見があり、楽しみがあって、システマティックな提供方法と禁欲的な空間は、これを味わうためにあるのだなと、あらためて実感する。食べて単純に旨いと思えるが、これは何を感じているのだろう、と思ってカードを読み返すことたびたび。しかしそんな分析をしてみても、結果には驚く。組み合わせというより、化合物のような、別物になっているのだ。

料理の運ばれてくるペースは、極めてスムーズ。我々は食事のペースが早い方だと思うのだが、それでも間が空きすぎることなく、コースは進行する。通常、料理ごとに説明のカードのない店だと、フロアスタッフと二言三言会話を楽しむコミュニケーションも、この種の店では楽しみの一つなのだが、そこはもう少し欲しかった気もする。店のもてなしを感じられるからだ。しかし、現在はコロナの第9波に入ったところ、会話を控えめにするのも、理があってのことなのかもしれない。ちなみに、コースの始まりに直々の挨拶があった大槻卓伺シェフも含め、店側は皆常時マスク着用。適切な判断と思う。

全体的に言うと、「偏差値の高い」印象。シェフが神戸大学経営学部卒業という異色の経歴だが、何となくそうした頭の良さを感じさせ、そして感性にも訴える、質の高い店だった。高級フランス料理を食べに行くことについて、ステータス性を求める向きの人にとっては異質に感じるだろうが、日頃から食に興味を持ち、本質を感じたいと思っている人には体験する価値がある。客によって好みは分かれるだろうが、真摯に料理に向かう姿勢がひしと感じられ、我々にとっては好感度が高かった。

(2023/7/26 記)