飲食店レビュー ASAHINA Gastronome(フランス料理 中央区日本橋兜町)


(★★★★★ 星5つ)

ASAHINA Gastronome(アサヒナガストロノーム)は、今年2018年10月下旬にオープンしたばかりのフランス料理店。ガストロノームを標榜するだけあって、食に真剣に向き合い、思考や文化を食で表現することに挑戦している。

朝比奈 悟シェフの名が全面に打ち出されているからには、彼の食に対する思想が全面に打ち出されている店と思ってよい。そして朝比奈氏はLa Table de Joel Robuchonでシェフを務めた人物。経歴をサイトで確認するに、時系列からして氏の料理は我々(俺とパートナー)は幾度か口にしたことがあるはずだ。精緻な技と驚きのある料理を期待して出向き、そしてその期待を裏切らないレストランだった。

オープンして1ヶ月経たないうちに訪れた。当然店内はピカピカ。しかし、”not too modern, not too classic”を標榜するだけあって、経年変化が危ぶまれるようなクリニカルな雰囲気ではなく、パッドと鏡を組み合わせた壁面や細かなLEDを配したインテリアショップにありそうなペンダントライトで明るくしつらえた店内の一方、クラシックなサーブ用ワゴンがあったり、カトラリーは装飾的な持ち手の物を用いるなど、現代的なムードと古典が同居する独特の雰囲気で、興味深い。

料理だが、食材は「このコースを仕立てるために一体何十種類使っているのだろう」と思う位に、バリエーション豊かに、また、贅沢に使われている。一皿一皿、展開がありながら、シェフの作風を一貫して感じるところは、さすが長く輝かしいキャリアのシェフなだけある、と思わせる。そして、幾何学的であったり、細かな細工のされたところに、ロブションで培った技術と系譜を感じる。

このクラスの店になると、期待を超える感動と驚きがなければならない。そうした期待への重圧もあろうが、きっちりやり遂げている。お昼にこんな真剣勝負をして、また夜も奮闘するには、精神的にも肉体的にも強靭でなければならないだろう。それはシェフだけでなく、すべてのスタッフに求められる。

ロブション氏も亡くなり、独立したことだし、これからは自分を立てていこうというブランディングに対する意気込みは、そこここにあしらわれたASAHINAのロゴ使いにひしと感じられる。最初にテーブルについた時の飾り皿、バターの上のロゴ、皿に敷かれたフィルム、果てはトイレのミニタオルにまで。いわゆる「キャラ立ち」できるかどうかということは、生き残って行くうえでも、自分の世界を料理界で拡張していこうという点でも、重要なのだろう。

店を去る時、シェフの挨拶があったが、顔を見て、ああこの人はやっていける顔をしているなと、僭越ながら思った。華がある。それもまた、ロブション氏の置き土産だろうか。あっという間にミシュランの星を獲り、そして予約も困難になるだろうから、今のうちに行っておくのもいいと思う。もちろんそれからも期待できるだろう。