ブックレビュー『南方熊楠』


鶴見和子(著)


(★★★★★ 星5つ)

破天荒な生き方と、何者をも凌駕する圧倒的な知力と、尽きることを知らない探究心。それが南方熊楠の膨大で深遠な世界を作り出しているが、南方の学問と同じで、彼の生き方を体系的に整理したものは少なく、世に散逸していて、理解を遠ざけている。そこを鶴見は明快にわかりやすく紐解いてくれる。

南方は突拍子もない人物と思われており、多くの人は彼の行動を知ると「何故」という疑問を抱くが、人物に敬意を持って丁寧に寄り添った本書を読むと、南方が理解しやすく思われてくることだろう。(人物に敬意を持ってというあたりが、実在の人物を題材に取りながら台無しにしたドウス昌代の本とは多いに違うところだ)鶴見独自の視点も明快で、南方ワールドへの入門書として、とても好ましく感じた。