ブックレビュー『イサム・ノグチ 宿命の越境者 』


ドウス昌代(著)

 <上>


(★★★★☆ 星4つ)

丁寧な取材と時代考証で美術家の一生をたどってるのには敬服。しかし学術書のように、いちいち引用に約物が用いられてる点はx。読み物としてこの本を読もうとしている人には鬱陶しい。

それにもまして読み進める上でひっかかるのは、いかにも 「自分は徹底してウソは書きません、事実検証を基にしました」と筆者が誇示したがっているかのように、すべての事実を白日に晒すことに躊躇なく、情報の取捨選択において人間を題材に扱っているという敬意や愛情が不足している点。愛を推進力に生きたイサムノグチがこのような形でかかれるのは皮肉。この本を買う価値はもっぱらイサムノグチのバイオグラフィーが体系的に分かるという、素材のおもしろさからだろう。

<下>


(★★☆☆☆ 星2つ)

<上>に続いてイサムノグチの晩年を記した下巻だが、やはり人間としての素材への敬意を欠いた印象はそのままである。殊に、イサムノグチに晩年助力を惜しまなかった人間を「仮性遺族」などという表現を使っているのは、いかがなものか。もし自分が血縁関係にない者に傾注し、助力したのが長年に渡った末に死別したとき、「あなたは仮性遺族ですね」と言われたらどう思うか。非常に気をそぐ表現で、この一語だけでかなり残念な出来となった。
上巻を読んだ以上読み進める必要があるがゆえに読んだが、作者の「優等生的」ルポルタージュには鼻白む思いだ。文章家としてこの文章の語彙センスはいかがなものか。