ブックレビュー 恒川光太郎


夜市


(★★★★☆ 星4つ)

軽く読めて筋も追いやすいのだが、浅くはない。物語の取っ掛かりはたやすいのに、そこからの展開が予想外に深い。ホラーというと残虐性や陰惨さだけが追い求められそうだが、この作品はその点とても上品だ。なのに読ませるというのが良い。

巻末の解説にあるとおり、確かにこれはホラーというよりもファンタジーに近い。しかし、現代のこのどこまで行ってもLED照明で白々と照らされているような平坦な世界のどこかに、闇へと通じる世界への扉があることを期待する、陰影への探究心を捨てない読者にとっては、その闇へと誘ってくれるこの作品は確実にホラーの本質を備えていることから、ホラーと言って少しもおかしくない。

何となく懐かしい、それでいて新しい、現実と隣合わせの虚構を見事に構築していて、読む価値がある。本に収録されている『風の小道』では個人的に馴染みのあるロケーションが舞台となっている点も面白かった。(2014/6/16 記)