映画レビュー 追憶と、踊りながら (Lilting)



(★★★★☆ 星4つ)
舞台はロンドン。同居しているゲイカップルの片割れ(カイ)が、老人ホームに入っている母親(ジュン)を訪れる。ジュンはカイとの同居を望みながら、カイはジュンに「友人」として紹介しているリチャードを、カイへの独占欲から毛嫌いしている。ところがカイは急死してしまい、リチャードはジュンに、家に来るようにと言うのだがジュンは意固地でいる。ジュンは夫とは死別している中国系ベトナム人で、英語が話せず社会になじまないまま孤立気味で、リチャードはそんなジュンとのコミュニケーションのために通訳のアジア系の女性を連れてき、話をする、というのがプロット。

ゲイが母親とべったり共依存というのは、よく聞く話だ。そして、その息子が母親との関係が崩れるのを恐れてカムアウトしないままずるずる、というのも、これまたよくある。一般社会には知られていないかもしれないが、ゲイ界隈では腐るほどある。そんな「よくある」背景を、当事者の母親にスポットを当てつつ、息子からの視点よりは、その息子のパートナーから見て接触させる、という視点が興味深い。

ジュンを演じる鄭佩佩(チェン・ペイペイ)の演技が白眉。管理型毒親を母に持った身から見ると、これほど作中の母親にイライラさせられることはない、という妙な感情を起こさせるほどに上手い演技。頑なな老女性を見事に表現している。

そして、カイとジュンもナチュラルにゲイを演じていて好感。通訳役の女性も、これまたキーになる役柄なのだが、演じるNaomi Cristieはこれまで映画出演の経験はなかったのだとか。しかし、機転が利き聡明な女性役として好適。

生前のカイとジュンの交流の様子とが描かれているのだが、カイが急死してしまってその後のことは、もちろんリチャードにバトンタッチされて描かれる。それだけに、急死の原因はさらりと語られるだけで、カイの影がやや希薄だし、自分の愛した人の母親だからといってそこまでリチャードがジュンに気をかけるのもありなのか、と僅かな疑問は湧くが、それでも意固地な母親にずばりと切り込むリチャードが、批判ではなく愛情からそうするというアプローチは、映画を観終えてどこか温かい気持ちになることに寄与している。

丁寧に作られた映画で、大変好感。(2018/9/7 記)