映画レビュー キャタピラー



(★★★★★ 星5つ)

観ようと思っていてひきずっており、ようやくこの時期になって観たのは、若松監督の1周忌。呼ばれていたのだろうか。それはともかく、漫画本は本のレビューの中唯一の漫画本としてレビューしているが、テーマの掘り下げはこちらの映画の方が遥かに深い。

映画はずばり反戦で描かれている。戦争がむごく虚しいものであることは言を俟たない事実だが、それが愛憎と絡まって描かれている様はなかなかない。寺島はまさに体当たり演技だが、負傷軍神役の大西信満もなかなか。

しかしここまでやるなら、メインテーマは四肢を失った夫と妻の愛憎や人間の根源欲から戦争へとシフトしているとはいえ、妙な映画倫理で描けなかった性交シーン(人の生の構成要素としては大変重要だ)の食い足りなさはすこし疑問で、そこの掘り下げは漫画本に譲る(克明過ぎてそれこそエログロだろうが)。
また、精神の均衡を崩した様や、最後のきれいすぎる軍神の死に様は、少し観客に親切すぎるかなと思えるにしろ、メッセージ性のしっかりした監督の考えに支えられていて、雰囲気に流されやすい日本映画の多くとは一線を画している。観るべき映画。監督が事故で昨年亡くなっていたのをレビュー時に遅まきながら知り、その死が今更ながらに悔やまれる。(2013/10/10 記)