ブックレビュー『芋虫』


丸尾末広(著)


(★★★★☆ 星4つ)

このホームページのレビューで漫画を扱うのは最初、そして唯一になるだろう。漫画は趣味でないので。さて、この『芋虫』江戸川乱歩原作というので、見る気になった。芋虫は2005年に一度映画化されており(『乱歩地獄』)、今年2010年に寺島しのぶがベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞して話題になった作品『キャタピラー』も、『芋虫』の映画化だそうだ(版権の関係で原作乱歩とはクレジットできず、モチーフが乱歩の作品、という言い方)。寺島しのぶが映画賞をとったとはニュースで知っていたが、興味が沸かなくてどんな作品かも知らず、このレビューで扱う芋虫を調べていてそうだったのだと知った次第。

もとい、この漫画芋虫なのだが、饐えた臭いが漂ってきそうな画力がある。そして、裏にこういうことは必ず人間抱えているのに表立って決して語られない、人間の肉としての実態や、醜悪で残酷なものをどこかで欲するドロドロした心理をつまびらかにして、他人のそれがどんな様子か、極限に置かれたシチュエーションではどんなだろうかと期待している読者の覗き見心を存分に満足させてくれ、満腹どころか吐きそうになるほどにしてくれる。

原作は大正時代から流行ったエログロナンセンスが昭和の闇に継承され爛熟した果実であり、これをビジュアライズするには、映画よりも漫画という手法の方が最適なのかもしれない。何故なら、メディアとして漫画は俗だと考えられており、そういう世間的に低級娯楽と見られるメディアに猟奇な趣のある小説を視覚化して落としこむことは、原作の持つ後暗い面を増幅させるからだ。映画は未見だが、よほどカルトなものでないと、原作のイマジネーションを超えることは難しいだろう。