飲食店レビュー 銀座うかい亭(中央区銀座5丁目)


(★★★★★ 星5つ)

銀座うかい亭は「非日常の空間、最上級の鉄板料理、そしておもてなし」を自称する高級鉄板焼の店。行くきっかけは、計画していた海外旅行が新型コロナ騒ぎで中止になったことだった。旅行に行くはずだった期間の休み、食事に行って気晴らしを、という訳だ。

予約して赴いたのは、平日の昼間。今時珍しい、エントランスからしてゴージャスさを感じさせる作り。レセプションホールにはウェイティングバースペースや、グラス・デキャンタ等が飾り置かれたキャビネット等があって、そこを通り抜け、我々を担当するフロアー係に誘われてメインダイニングへ。

古代ギリシャを思わせる、魚介をデザインしたタイル画のある鉄板カウンターがあり、周りを見渡せば、接待に使われることも想定してあるのだろう、他の客の視線をうまく遮る配置のテーブル席などもあり、天井は近代的ビルの一階にあることを忘れさせるような、古民家で見られる太い梁が渡されていたりと、一種独特の空間。

昼間はランチコースがメインだが、グランドコースも終日用意できるとのことで、我々は「鮑とうかい極上牛コース」を予約しておいた。

スターティングのシャンパーニュは Louis Roederer Brut Premier。コクのある飲み口なのでこうした鉄板焼コースのスタートには好適と思う。その他、モンラッシェ、ブルゴーニュと、料理に合わせて白赤をセレクトして出してくれるワインセレクトをオーダーしていたのだが、出てくるタイミングも適切、無論、料理との相性も良かった。

料理の進行具合はとてもスムーズ。食べるペースに合わせて一品一品出してくれるタイミングも適切、時間を楽しみつつ間延びしない絶妙さ。我々の席はスーシェフにご担当いただいたが、さすがの腕前。コミュニケーションもそつがなく、料理の説明とともに、見事に料理を仕上げてくれた。一部の鉄板焼店に見られるような過度なショーアップはないが、腕前の良さは見て取れる。カウンター席の面目躍如である。
そしてもう一つ感心したのは、カウンター中央の柱に仕込まれた排煙設備の見事さ。匂いの拡散も少なく、煙がまったく上がらないのだが、静かで、空間を邪魔していない。下世話な話だが、お金をかけて作られているのだなあと、高級店ならではの特徴をそこに見た。

こういう種類の店では、わかりやすくオーセンティックな高級感を求められることも他聞にあるが、食器選びではそのあたりのニーズにも応えてくれる。バカラやリーデル、マイセンといった名食器は、出される食事をいっそう華やかに演出していて良い。

訪れた時、世はコロナ禍真っ只中(2020年7月末)。高級であろうとそうでなかろうと、飲食店はどこも青色吐息で、よくぞこの店が非常事態宣言での自粛を潜り抜けてくれたものだと思う。その時期を潜り抜けた時に手が行き届かなかったのであろうランプシェードの多少の埃等には目を瞑ろう。高級店ならではの食のクオリティー維持はもちろん、多くの人を擁し、特別な時間と空間を提供することの難しさを乗り越えていることだけで、ありがたい。カウンターでコースを食べ終え、デザートは席を移動して別サロンで提供され、寛いですべてを食べ終えて後にする時、心地よく出口まで複数人で見送る姿勢も心地よい。

小難しいことは考えたくない、ゴージャスな空間で旨い物を食いたい、という向きにも、ファインダイニングに慣れた人が何か発見を求めて行くにも、好適。また訪れたい。