飲食店レビュー Lature(フランス料理 渋谷区渋谷2丁目)


(★★★★☆ 星4つ)

Lature(ラチュレ)はGault & Millauで明日のグランシェフ賞受賞で猟師免許を持つシェフのフランス料理店で、ジビエが評判。ミシュラン1つ星。最初に言い訳をさせてもらうと、すぐレビューを書けばよかったのだが、徒に日にちが経過してしまい、メニューはネットに細かく公表されていたり、当日印刷して配られるものではないのもあって、正確なメニュー名は記載できず、記憶された味の印象に留まり、このレビューは、大したことを言えた義理ではない。

さて、店は渋谷の宮益坂を上がり、南青山に差し掛かる中ほど、通りを少し入ったところにある。地下にあり、入り口はごくシンプル。階段を下ると店で、入った時には客層が若く、そして設えがごくカジュアルに見え、正直な印象としては「これがミシュラン1つ星?」といった感じ。スーツで行ったのだが、スーツが似つかわしくないのでは、と思えるほど。具体的に言えば、店の設えが、もう少し高級感がほしいところだ。それは、リラックス感とラグジュアリーの両立を求められる現代において、後述する料理の上質さと釣り合う造りとしては、もうひと工夫ほしい、という意味で、壁面収納や、オープンキッチンのカウンターなどに見える「居抜き感」を整えてもらうと、料理と、そこですごす時間をより感動のある物にしてくれるのではないか。

しかし、料理は本格派。しかも、圧倒的。コースの概略説明は、シェフ自らが説明をしてくれる。その喋り方はほがらかで快活。料理の腕の自信からくるものもあるだろうが、そういうキャラクターなのだろう。オープンキッチンで、カウンター越しに調理の具合が見える店の作りのように、オープンな感じ。

ホールスタッフも、仕事の内容をきっちり自分の頭で理解し、誇りを持って仕事にあたっている感じが好印象。たまに、凝った料理を出すがフロアはそれについて行けず、暗記した料理方法を一生懸命思い出しつつやっとアウトプットするといった店もあるが、ここではそういうことがない。ソムリエもコミュニケーションが適切で、「こういうのを飲んでもらいたい」というビジョンのある感じで、良いスタッフに恵まれた店だなという印象。途中、料理をキッチンのスタッフが持ってきたが、各スタッフも「やらされている感」がなく、意志的に打ち込んでいるようで、ここはいわゆるスターシェフの店であるにしても、いいチームだなと思えた。

肝心の料理だが、季節感をしっかり感じさせ、星付きの店の格に見合った高級食材も織り交ぜながら、クラシックとモダンを行き来する、独自の構成。最近流行りのプレゼンテーションや料理法もありながら、クラシックな料理は安定感があり、驚きも期待も、両方を満たしてくれる。
そしてジビエは圧巻。そこに至るまでの皿を味わって行って「自分も店と渡り合える位の舌と経験はそこそこあるかな」と慢心したのをノックアウトする。
パートナーと行き、食事を堪能してシェフに見送ってもらいつつ店を出る階段を上ったが、酒を飲んだからというよりも「やられた」との思いでハアハアする。シェフの笑みがまるで勝利の笑みのように感じられたほどの圧倒的技量。フレンチを食べ慣れた人には是非行ってもらいたい店だ。誕生日で行ったのだが、自分も53になるが、まだまだだなと思い知らされた。今度行く時には、謙虚な姿勢で食べに行きたい。(2021/1/2 記)