飲食店レビュー SAC(武蔵野市 吉祥寺南町)


(★★★★★ 星5つ)

SAC(サック)はフランス料理店。表の様子は気楽なビストロといった趣き。中はカウンター席もあるが、テーブルにはちゃんとフルのテーブルクロスがかかっていて、ブラッセリー的しつらえで、デートなどにも最適。ふらりと立ち寄っても(空きがあれば)気軽にフレンチが楽しめるカジュアルな感じだが、要予約のメニューもある。この日は夕飯を作っていなくて、外食しようと吉祥寺へ出向き、前から看板を見て気になっていたので入ってみた。

カジュアルながら、コースはアミューズから始まる。そのフレンチレストランが質を追求しているいい店かどうか、ひとつ参考になる要素としては、ワインリストに、クレマン等の他にシャンパーニュがオンリストしているかどうかがある。SACにはちゃんとしたシャンパーニュがあった。この日はドラピエ・カルト・ブランシュ。モエ・エ・シャンドンやヴーヴ・クリコではないのが、シャンパーニュなら何でもというのではなく、知っている人が楽しめる印象。サーブもフルートグラスでなく、幅広の香りの楽しめるグラス。これだけでもう気分がいい。

そして接客が心地よい。明るく、丁寧で、心がこもっている。料理のこともきちんと心得ていて、キッチンにいるシェフと連携が取れている。何かちょっと聞くとすぐ「聞いてまいります」とギャルソンが引っ込んでしまう店も少なくないが、ここは物の分かった感じで安心。

肝心の料理だが、伝統的な技法もおさえつつ、意欲的な素材も使っていて、安心感と新鮮味との両方がある。ああ、やっぱりフランス料理って粋でいいね、と思えるのだ。ちょっとした果物使いであったり、普通の胡椒でも済ませられるところを挽いた生のグリーンペッパーを用いていたりして、「お?」と思う一捻りがあるが、捻りすぎておらず、食材の調和が取れている。

最後にシェフが出てきて挨拶していただけたのだが、年季の入ったビル内の店にもかかわらず、比較的年若い感じの方だった。でも味は安定していて、店の良心を受け継いでいるという感じだ。高級店ばかりがフレンチレストランではない。日常に根ざした、でもちょっとおしゃれで驚きのある料理を出すこんな店があると嬉しい。(2016/8/25 記)