飲食店レビュー Florilège(フランス料理 渋谷区神宮前2丁目)


(★★★☆☆ 星3つ)

Florilège(フロリレージュ)は、2021年ミシュラン2つ星のフレンチレストラン。和の食材を用いつつ、フレンチの技法で料理を仕立てるお店。2021年9月上旬目下、東京はコロナの緊急事態宣言中ではあるが、俺もパートナーもワクチンを2回接種して抗体ができる相当期間を経過したところで、食事に出かけた。

場所は住所的には神宮前だが、ほぼ青山。外苑前の駅から5、6分。ビルの地下にある。レストランはオープンキッチンで、ライブ感が売りの一つ。キッチンを囲んで凹型にカウンター席が並ぶ。我々はその中央に着席。席と席の間は余裕があるが、そこにコロナ対策の仕切り等はなく、全ての席は等間隔に設置されていて、パートナーとの距離も、隣席との距離も均しい。平日の昼間出向いたが、すべての席が埋まっており、その辺り、コロナ的な意味で何か配慮があってしかるべきと思う。ちなみに入店時、手指の消毒は促されるが、検温等はなし。

地下の店ながらライトコートに面していて、昼間は窓から光が届く。が、ドラマティックな演出を意図しているのか、料理に集中させたいのか、暗色のカーテンは全閉されている。

料理がスタート。ノンアルコールドリンクとのペアリングを頼む客も多いが、半数ほどはシャンパーニュをオーダーしている。我々もシャンパーニュにした(俺は途中でノンアルコールカクテルもオーダー)。

大きな花器が、2つあるアイランドのそれぞれに置かれていて、見られることを意図したキッチンの床は、客席よりも低く設定されていて、全体が見渡せる。調理用具も色の統制が取れていて、プラ容器やタッパーは透明か白、食品ラップでさえ、周りを黒のテープでマスキングされている。そしてスタッフの多さに驚く。それぞれが忙しく立ち働いている。

このオープンキッチンを主体とする構造的な宿命で、課題がいくつか見いだされた。
一つは接客。キッチンスタッフが兼任していて、フロア担当はいない。それゆえ、忙しい合間に一言二言、といった感じのコミュニケーションで、料理のことをもう少し聞きたいとか、感想を告げたいという気にさせない。話しかけ方も「接客もやっとかなきゃ」という義務感が先立っているように感じられた。それは星付きレストランとしてどうなのだろうか、と少し疑問に思う。
そして、カウンターの幅が十分にあるのは贅沢な作りで良いのだが、その幅と、フロアの高さの違い故、料理を下げる時には皿を客がキッチン側に戻す等、協力体制が必要。そういえばフレンチレストランで皿に手を触れるということはあまりないなと思う。シャンパーニュや水等、飲み物を注ぐタイミングは適切だが、シャンパーニュを注ぐ時にはキッチン側から片手でボトルのボトムを持って注ぐのは危険すぎるので、客に出したグラスをスタッフが手にとって注ぐことになる。銘々に出されたグラスは、食事の間はパーソナルな物、自分以外の手が触れることに多少の違和感がある。コロナの昨今でもあるし。無論、厨房スタッフなので手は頻繁に洗い、清潔ではあるのだが。
フロアにスタッフは配置されていない。なので、星付きレストランになると、客席をよく見ていて、客が左利きだなと思えば(俺だ)、カトラリーを左に配置したり、洗面所に立つと、中座している間に席とナプキンを整えるのは、フロアー担当に求められるところだが、ここのレストランでは、それに気づいたスタッフが外に回ってきて行うことになる。ナプキンは、パートナーが中座した際には整えられたが、俺が席を立って帰ってきた時には、気づかなかったか間に合わなかったか、そのままだった。カトラリーの配置もまた、そのまま。

そして、オープンキッチンで見せることを意識するならば、このセクションで何をやっている、ここで料理の仕上げがある、といったことをもっと客に分かるように場の見せ方を考えてもよいのではないかと思う。スタッフが忙しく働いていて料理が出てくるのがただ見えているのでは、現場見学のようだ。

メニューは素材の名がポツポツと並ぶ。無論、それを主な素材として、複雑に他の食材と組み合わされ、技法を凝らして料理は提供される。盛り付けはミニマリズムを感じさせる物。シンプルな中に奥深さを発見してほしいという意図なのだろう。素材だけでなく、器も和風な感じだった。全般に味は濃い目。そこが、これがフレンチであって和食ではないことを感じさせる。料理の出されるタイミングは適切。量も、コースを通じて食べると満腹になるくらい。途中、経産牛を使った料理では、それが何故料理名にサステナビリティと名付けられているかの説明とともに、廃棄される食料について思いを致してほしいとのメッセージカードが配られた。

しかし、食べ終えてみると、面白い場所で凝った料理を食べたという感慨はあるのだが、禁欲的な空間演出と料理の盛りつけのせいか、物足りない接客のせいか、贅沢で良い食事をした、という感覚はあまり湧いてこなかった。コンセプチュアルなのはいいとして、贅沢な食事をした時、そこに悦楽を感じてはいけないのだろうか、という釈然としない感覚が残る、とでもいえばいいだろうか。

一斉に皆が席につき、食事をして、コースを食べる時間がだいたい一緒だと、会計も当然同じような時間になる。我々を含む客が立ち去ると、スタッフの複数から「ありがとうございます」の声があるのは、居酒屋ってこんな感じだよな、というもの。無論、声がけがないよりはいいのだが。シェフからの挨拶はなし。出された物を定形でありがたくおしいただき、食事を終える。口を悪くして表現すると、極めて高級な給食の時間、といった感じだ。個々の皿に対する感想は下のギャラリーにあるキャプションを読んでもらうとして、全体を食体験として考えた場合、これがミシュラン2つ星なのは、かなり甘めの採点ではないのだろうか、というのが正直な感想。料理を提供することに必死で、客へのもてなしを忘れかけているのではないか、ひょっとしたら2つ星を保つのはこのままでは危ういのではないか、とさえ危惧する。

このレビューを公開する前に少し時間を置いて、この体験を再考するに、このコロナ禍において客もスタッフも対策が不備な環境に置かれるというのは、どうなんだろうかと。サステナビリティー大いに結構、しかし、公衆衛生や個人の健康はお留守というのは、食は命をつなぐ物という一義的な意義において矛盾を生じさせているのではないか。あらためて、ワクチンを2回終えて相当期間経過後の来訪でよかったと思う。そして再訪はない。

(2021/9/9 記)