飲食店レビュー Crony(フランス料理 港区東麻布1丁目)


(★★★★★ 星5つ)

Crony(クロニー)はモダンフレンチのレストラン。ミシュラン2つ星。日本の食材を活かし、サステナビリティーに配慮した料理を提供する店。パートナーじょにおの誕生日記念に訪れた。

道路から少しセットバックし、シンボルツリーのあるエントランスの扉を開けて入ると、すぐ左はオープンキッチン。年若いスタッフが調理に勤しむ姿を見ることができる。生き生きとした空気。レセプショニストに案内されて階段を上り、席に案内される。茶飲み友達を意味する店名らしく、しっとり落ち着いたムード。総じての傾向は北欧デザインだが、壁のしつらえ等は少し禁欲的なテイストで、そこにYチェアがあしらわれてあったり、テーブルクロスのかかっていない素朴な木のテーブルが合わされていたりして、寛ぎ感をミックスさせている。平日の夜だったが、席はほぼ満席。

コースはおまかせの1種類のみ。ソムリエと相談し、シャンパーニュで通したい旨知らせ、チョイスが今日の料理に合うかと聞くと、「素晴らしい選択と思います」と返答。無論、ワインリストは食事に合うものを吟味してセレクトされているはずだが、客に恥をかかせず、これからの食事の時間をスムーズに展開させる感じがして、好ましい。因みにこの夜の選択は、Perrier-Jouët Blanc de Blancs。フレッシュさと繊細さが和の食材を活かす料理に合うかと思い。

そして料理は驚異の18品。もちろん、胃袋のボリュームを考慮しての組み立てだが、一つひとつにストーリーと凝った調理法が投影/投入されているのは、このクラスのレストランらしいところ。最近は食材をどこから仕入れているか、食器はどこの物を使われているかも、客に情報開示する店が増えている印象だが、ここもそう。食通の興味に存分に応える姿勢が窺われる。そしてフロア担当は、各自がきちんと料理法を自分の頭で消化して紹介していることが見え、安心する。(たまに「一生懸命覚えました」という感じのアウトプットに必死な店もあるが、Cronyではその点澱みなかった)

メニューに書かれているのは産地(と物によっては造った人)と、素材名のみ。モダンフレンチでは一品の中に書かれている素材以外にも複雑に食材を組み合わせて、料理方法も一つではないのが恒なので、全てを記憶しておくのは難しいほど。なので、コースを通じての印象になるが、繊細であったり、遊び心があったりして、素材そのものが持つ風味を引き出しながら、手を加えることの大切さも感じさせてくれる、自然と人との共存を料理を通じて表現していることが見て取れ、素晴らしかった。
時折、これは自分の味覚の好みとは少し違うという物もあったが、それは18品中2つほど、そしてあくまで好みの問題。完成度が高く、サービスも心がこもっていて好印象。

コースを食べていて、茶の湯の席のようだなと思うことがあった。料理の外観からは、中に仕込まれている物を一見して知ることはできず、五感を澄ませて感じ、その向こうに季節や、食材を提供した人や、料理人や、もてなしの心を感じ取る。どの料理が飛び抜けて特徴的というのではなく、説教めいたものではなく、料理人との一騎打ちでもなく、全体を通じ、空間をも含めて、その一期一会を大事にする体験なのだ。

帰りには、コースの中の1品として出されたパンをバターとともにお土産で渡された。シェフの顔も見ることができ、若い才能に、これからも成熟していくであろうポテンシャルも感じた。食通におすすめの店。ただ、これは全く店の問題ではないのだが、飲食店関係者と思しき客で、品のないのがいて、虚勢を張った態度がみっともなかった。それが敵情視察であれ、勉強のためであれ、気晴らしであれ、そんな態度をしているだけで、もうその者の「負け」である。高度な料理を出す店では、客も店に対する敬意が必要。そこはどちらが供するといった主従の関係ではなく、空間と時間と料理を楽しむために、覚えておいてほしいものだ。

(2022/6/15 記)