ブックレビュー 中島らも


ガダラの豚 【I】【II】【III】



(★★★★★ 星5つ)



(★★★★★ 星5つ)


(★★★★★ 星5つ)

何ともスリリングで、ちょっとバカバカしくて、恐ろしく、そしてうんちくの詰まった小説。中島らもは生前の飄々とした関西人らしい、あのちょっとおとぼけたオッサンといったイメージしかなかったが、今になってこうして本を読んでみると、とても思索が深く、クリエイティブで、知性を無駄に使った(注:褒め言葉)贅沢な人生を生きた人なのだなあと思う。

物語はトリックと、トリックあばきとの攻防が続き、そこに呪術も絡んで、何とも独特の世界を巻き起こす。最後にはけっこう派手にやらかしてくれて、これは書いているうちに相当映画化を意識したんだろうなとも思う。しかし、書かれた当時にこれを映画化しようとしたら、莫大な金が要っただろうというか、ほぼ実現不能だっただろう。今なら、CGの助けを借りて、これは映画化できる。チープになりそうな予感もするが、そうしたら観てみたいと思う。

3巻にも及ぶ大作だが、その展開の面白さから、読むのはあっという間。サスペンス好き・サブカルチャー好きなら、是非ともお勧め。

今夜、すべてのバーで


(★★★★★ 星5つ)

アル中についてよくわかり、なおかつ小説としてストーリーを楽しめる本。楽しめる、といっても楽しいような内容ではないので、「興味深く筋を追える」と言うべきか。アル中をダメ人間扱いするのは簡単だが、その共感できない行動や心理に何があるのかが、これを読むと分かる。

小説でありながら、描かれている世界はリアル。それは、中島らも自身の実体験がモチーフになっているからでもあるが、文献などの下調べも念入りで、作者の誠意や知性が感じられる。「知性がありながら、中島らもの生き方はなぜにああ破天荒だったのか」と作者に思いをはせずにはいられない作品。

※作品中に意図して「アル中」と書かれているので、ここでもアルコール依存症とは書かずに、アル中と記した。