付き合い遍歴 その13 相互侵略


俺は、探りに出た。今度は俺が健二郎を侵蝕する番だった。健二郎が俺の部屋に来た時、俺のPCを使えるよう、健二郎用のアカウントが作ってあった。簡単な推測できるパスワードで、健二郎のアカウントには造作もなくログインできた。あれこれ策を巡らしているようで、杜撰なところもある健二郎だった。健二郎のフリーメールはログインしっぱなしだった。当時のウェブメーラーは今ほどセキュリティーに厳しい施策が取られておらず、タイムアウト設定が緩やかで2段階認証などもなかったので、ブラウザーを立ち上げて履歴をクリックするだけで、そのまま見ることができた。

案の定、出会い系サイト経由で知り合った相手に、とっておきの自分の半裸画像を送ってやり取りしているメールが残っていた。俺には見せたことのない画像だった。ああやっぱりかという気持ちと、なんだこれはとの憤りが、両方同時に湧き上がってきて、俺はやり取りしている相手に非難のメールを俺のメールアドレスから送った。その相手からは、健二郎宛に、 What happened to HER?と、俺を皮肉りつつ、やり取りが露呈したことに当惑するメールが送られてきていた。その後、ハワイでどういう展開があったのか知らない。知る気にもなれなかった。

健二郎と俺の間での応酬は、あくまで水面下で起こっていて、表向きは遠距離恋愛で関係を育むカップルだった。mixiに日記があって、俺と健二郎それぞれの日記には順調な側面を記した様子が綴られていた。体面を繕うのが、俺も健二郎も得意だったのだ。

健二郎は基本的に、自分自身にしか興味のない人間だった。この付き合いの間に、俺が住んでいたマンションが建て替えることになって、俺は同じ中野区内で違うマンションに引っ越すことになった。付き合っている相手が引っ越すなどということは普通、割と大きな出来事だと思うが、健二郎の反応は「ふーん、そうなんや」とだけ。まるで「今日の日経株価平均は小幅な値動きでした」というニュースでも聞かされた程度の反応だった。遠距離でもあることだし、と俺は自分自身を納得させて、一人引っ越し作業を済ませた。

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