パートナーじょにおの37歳の誕生日に贈った1本。去年はAmour de Deutz 2007だったから、2年連続でDeutzということになる。Amour de Deutzについては、上記リンクのレビューページで「ブラン・ド・ブラン(白ぶどうだけで醸されるシャンパーニュ)。ピノ・ノワールで有名なアイ村に本拠を置くメゾンのトップキュヴェとしては異例に思える」と書いたが、やはりアイ村の名門メゾンとしてはピノ・ノワールで醸すプレステージキュヴェの必要を感じていたのか、メゾン設立180周年を記念してリリースされたこのHommage À William Deutz Parcelles d’Aÿ 2010はピノ・ノワールによるブラン・ド・ノワール(黒ぶどうで醸されるシャンパーニュ)。

Parcelleとは土地の一区画のこと。このキュヴェにはDeutzの所有するCôte GlacièreとMeurtetの2つの畑のピノ・ノワールがそれぞれ48%と52%使われているのだそう。単一の畑なら今流行りの「クロ」(Clos)と名付けられたことだろう。ドサージュは明らかでないがbrutなので6g~12g/lの範囲のはず。最近の作り方からして、おそらく9gを超えることはないだろう。
製造はわずか6000本。といってピンと来ない人のために言うと、大体Dom Pérignonは800万本、Krugが50万本、Salonで8万本(いずれも年間)と言われることからすると、希少さが知れるだろう。


開栓して放たれる芳香に期待が膨らむ。色は意外にも明るい黄金色で、ピノ・ノワールのシャンパーニュらしいオレンジ色のニュアンスはない。泡は細かい。注いだ直後には層をなすほど泡立つが、あとはすっと立ち上り続ける。

口に含んでまず感じるのは、芳醇さ。桃やマンゴーやプラムなどを凝集したような幅広く奥行きのある味わい。だが、極めて丸い。Deutzを飲むといつもどこか、森に誘われたような感覚がするが、それももちろんある。世俗の憂さを全て取り払う夢心地がする。しかし、Louis Roederer Cristalのような絢爛さではなく、あくまで奥ゆかしい。DeutzはLRの傘下にあるが、やはりDeutzはDeutzの存在価値がある。

そして飲み進めるうちに香りは深くなってゆくが、ブラン・ド・ノワールなのにあまりにもスムースなので、気づくともう残りは僅か。とあるワイン評論のサイトによると、このキュヴェの飲み頃は今からだんだん上り調子に、ピークは2024年だとか。時期的にちょっともったいない飲み方をした気がする。機会があれば手に入れておいて、寝かせてみるのもいいと思う。