(★★★★☆ 星4つ)
Le Sputnik(ル・スプートニク)は六本木にあるフレンチレストラン。料理のコースを「季節を体現する瞬間を紡ぎながら旅のように」進むことをコンセプトに、店名もご存知旧ソ連の人工衛星の名前にもなったロシア語からとられている。今回はパートナーの誕生日祝いに、ランチで訪れた。
最初の方にレセプション兼フロアーの対応について文句を少々書くが、全般に印象は良かったので、安心して読み進んでもらいたい。
六本木の裏通りの小道にひっそりとあり、掲げられている屋号も小さく控えめだが、すんなり到着。が、12時に予約で11:58に扉を開けようとするとロックされている。ありゃ、と店外で待つと、12時ぴったりに開く。他にも前に1組待っていたが、12時に予約した客がいるなら、10分前くらいには開けるか、扉は12時ちょうどに開ける旨の掲示はあってもよさそうなものを。
レセプショニスト(かつフロア担当)の男性は仕事のモチベーションが下がっているのか、笑顔一つない。前に待っていた一組を受け付けると、こちらには一瞥もなくまずその客を店内に案内する。少しして戻ってきて受け付けるが、「こんにちは」の一言も笑顔もなく、こちらから言ってそれに反応する感じの人物。あとから思うに、2018年5月末現在にスタッフを募集しているから、このスタッフはほどなく辞めるのかもしれない。他のスタッフはとても感じがよかっただけに、落差を感じた。
さて、席につき、おまかせコースのみなのでメニューはなし。コンセプトのみが書かれたカードがメニュー代わりに置いてある。とまあそれはいいとして、お飲み物は?と先ほどの愛想とモチベーションのない男性に尋ねられ、コースを通じてシャンパーニュで行きたいのでリストを、と言うと、リストを作っていないという。星つきレストランでワインリストがないと言われたことはなく、ちょっと戸惑う。
何があるかというと決め打ちでTaittingerのPreludeを◯◯円で提供していると。他には、というと、ややあって、プレステージキュヴェでクリュッグ「とか」ド・スーザ キュヴェ・デ・コダリー「とか」と。どちらも好みでなく、かつその返しに不満だったので、ちょっと嫌味で「『とか』?」と聞き返すと、ストックを把握していない様子で提案がなく黙ってしまった。響かない人をいじってみてもしょうがないので、Taittinger Preludeで(これも味わいがチョーキーでそう好みでもないのだが、家には誕生日祝いに1本いいのを買ってストックしてあるので、それを飲もうということにして)。
立ち上がりはギクシャクしたのだが、ここからの運びはスムーズだった。アミューズが生物(熟成甘鯛)でびっくり。その後も、食材の組み合わせが新鮮で、モダンフレンチキュイジーヌに求められる料理法は近年流行りの低温調理含め諸々駆使されており、意欲的で興味深いメニューが続く。
そして、上記の人物以外のサーブはハートフルで心地よかった。特に女性はにこやかで、会話のキャッチボールができる感じ。高レベルの料理を提供するとなると、サーブする担当もそうあってほしいものだ。
食材は当然吟味されている。東京ではあまり良い物が食べられない甘鯛やハタなどもあり、そうした和のテイストを伴っていながらもきちんとフレンチとして成り立つ料理。聞くとシェフはなかなか厳しい人のようだが、一皿一皿神経の行き届いた感じが伝わってくる。そして作風(料理だがもはや作風といっていいだろう)は、その多少ピリッとした空気感と和の雰囲気をまとって、店の入り口の佇まいに見られるミニマリズムを思わせる、凛としたプレゼンテーション。だが、味や香りはバリエーション豊かで奥深い。コースとして全体の量も適切。
バースデープレートはチョコレートで書いたメッセージとベリーにエディブルフラワーのみの取り合わせで、少し寂しかったか。しかし、偶然居合わせた我々含む3組が誕生日祝いで、そんな話をテーブル同士でして、大変和んだ。客層はとてもいいようだ。茶菓子にまで手抜かりはなく、ちゃんと食べて喜びがあるのがまた良かった。
現在ミシュラン1つ星だが、ポテンシャルを感じる店。星が増えれば予約は一層取りにくくなるだろう。(2018/5/30 記)