T.K.O. (The Knock Out) (2018)
(★★★★☆ 星4つ)
Mýaのいいところは、セクシーさを押し出しながらも品を保っているところだ。今回も極めて露出度の高いアルバムカバー写真だが、それでもMariah Careyのような露悪趣味ではない。そして、これがデビュー20周年のアルバムなのだが、美しさを保っている。そこも違うところだ。
それはサウンドスタイルにも表れていて、夜の似合うシックで都会的な音を聴かせる。それは少々古い言葉で言えば「色っぽい」のだが、発情したチンパンジーよろしくケツを突き出す一部のR&B/Hip-Hopアーティストに見受けられる、あのセックスに直結したものではなく、あくまで雰囲気で事に持っていく感じの、含みをもたせた奥行きが良い。彼女が他のアーティストと違う魅力である。
曲はクラシックな作りが多い。”Ready (Part III – 90’s Bedroom Mix)”と題された曲もあるとおり、R&Bにスタイルがあった頃を現代風解釈で成り立たせている。フェイク回しもブラックミュージックファンを満足させるもので、彼女の声質とあいまって、現代のブラコン的展開は、聴いていてとても心地よい。ガンガン歌えば歌えるのに、その喉の本気を見せていないところは少し残念だが。
そう、これは「ブラコン」なのだ。スロウでメロウで、じっくりしっとり聴かせる歌。永らく忘れられていた、そのグルーヴ、フィーリング。それらをこのアルバムは堪能させてくれる。タイトルソング”Knock You Out”で、”Let me knock you out”と歌っているが、まさにノックアウトされる。大人向けの一枚。(2018/7/18 記)
Smoove Jones (2016)
(★★★★☆ 星4つ)
5年ぶりのアルバム。キュートさを保ったセクシーさが魅力のMýaは、その路線を踏襲しながら新しい音を届けてくれた。メロディーがしっかりしていて、キャッチーで、音が痩せていないのがいい。女性R&Bシンガーの2016年リリースのアルバムは、個人的にがっかりしたものが多かったが、このアルバムは、内省的を標榜した結果ギスギスした不幸な内容になったりしていない。チャーミングで健康的なセクシーさは、これもこれで確固たる意志に基づく一つのスタイルと言える。
具体的に言うと、Mýaの声の出し方は恣意的とってもいいようなコケティッシュなスタイルだが、それでもきちんと高音域まで出る。その魅力をきちんと伝えるようなサウンドスタイルは、例えば”One Man Woman”のような良曲で存分に活かされている。今の時代のカスカスの音や、あるいは傷ついて飛べない鳥のような自分を気取るような不幸な音が席巻する中では、賛同を得にくいかもしれないが、こうしたチャーミングなR&B女性アーティストの存在価値は、もっと支持されてほしいものだ。(2017/1/3 記)
K.I.S.S. (2011)
(★★★☆☆ 星3つ)
Mýaを初めて聴いたのは、Christina Aguilera, Lil Kim & Pink!との合同シングル”Lady Marmalade”ではなかったか。あの時にはやはり目立っていたのはChristina AguileraとPink!で、なんとなく他に埋もれてしまってはいたが、前後して出たシングル”Free”のリミックスで、ポップないい歌声をしていると思った記憶がある。しかし、ソロアルバムを聴こうと思うほどに食指は動かず、今回初めて聴いた。
“K.I.S.S.”は、ジャケット写真同様、セクシーながらもどこか品を保っていて、やはりポップでいくぶんコケティッシュな歌声でいいと思う。が、やはり中庸な印象から抜け出る何か強烈なものがほしいと思ってしまう。耳に心地よいのだが、流れていってしまうのだ。あんまりどの歌手もガンガンやられると疲れてしまうと思う場合にはいいのだが。好感度はあるのだが、立ち位置の難しいアーティストと思う。