音楽レビュー Philip Bailey


Love Will Find A Way (2019)


(★★★★☆ 星4つ)




Philip Bailey。長らく記憶の底に眠っていた名前だ。自分の中ではPhil Collinsとのデュエット”Easy Lover”(1984年リリース)で記憶が止まっている。そしてその頃の俺の音楽嗜好はまだR&B/ソウルに傾倒していた訳ではなく、テレビやラジオから流てくる80年代ヒットを追いかけていた。なので、「何か裏声で歌う人」くらいのイメージでしかなかった。Earth, Wind & FireでMaurice Whiteと双璧をなす名ボーカリストという情報も、もっともっと後になってから知り、しかもEWFはあまり好みでなかったので、Philip Baileyの音楽キャリアもまったく追いかけていなかった。

このアルバムは前作”Soul On Jazz”から17年の歳月を経ているとのことだが、”Soul On Jazz”は未聴。前もっての知識なくこのアルバム”Love Will Find A Way”を聴くと、”Easy Lover”のポップさもなければEWFのディスコやソウルのイメージでもなく、驚く。複雑で、クールなジャズサウンドが展開されているからだ。博学な解説サイトを見ると、「もともとEWFは当初ジャズ的要素があり」とか、Philip Baileyはそのインスピレーションの源泉が」云々とあり、たしかにそのルーツを辿ってこのアルバムのサウンドスタイルを理解することもできるだろう。

しかし、ポップやディスコで席巻してきたグループの活動を経つつ、2019年の今になってこのジャズスタイルを演ることを、彼の原点回帰と見るよりも、自らの音楽的挑戦としての高度な追求としてこれが現れたのだと思いたい。ジャズ好きの人はともかく難しく音楽を「考え」る。Philip Bailey本人は、考えさせたいのではなく、感じさせたいと思っているのではないか。この音楽の印象を、感じるがままに楽しめばいいのではないかと思う。

ジャズの知識もろくすっぽないまま、これを聴くに、クールと評したが、音楽的に高度なことを展開しているという意味や「かっこいい」という意味ではクールだが、Talking Headsの”Once In A Lifetime”やMarvin Gayeの”Just To Keep You Satisfied”のカバーがあったり、ハートウォーミングな要素が、聴いてほっとさせる。その辺りは、源泉にジャズ的要素があったとしても、ポップやソウルの経歴が活きたチョイスといえるだろう。もちろん、単なるカバーに留まっておらず、そこにはPhilip Baileyの個性が存分に活かされている。そして、聴いているうちに、ジャンルに対するこだわりがほどけていく。そんな自由さを感じられる、奥深いアルバムだ。(2019/11/10 記)