映画レビュー ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた (Waitress)



(★★★★☆ 星4つ)



単なるラブロマンスではなく、主人公が自分の人生を選び取っていく様に好感。食べ物がテーマに置かれている映画は好きでよく見るのだが、この映画はレストランの味に魅せられた人が客あるいはスタッフと恋仲になってゴールインのハッピーエンド、というストーリーではない。

主人公はパイ屋でパイ作りをしながらも、立場はこき使われるウェイトレス。独占欲と猜疑心にまみれた夫との生活に飽き飽きし、未来を夢見る彼女の行く末を描く映画だが、物語をそう要約すると暗く見えるところ、古き良きアメリカを思わせる光景や、そこここに散りばめられたユーモアのセンスでもって、暗い気分にはならないので安心。先の見えない感じの日常光景の描き出し方が上手く、それをそうした郷愁に似たレトロスペクティブなロマンティシズムでうまく包んでいる。

古き良き、といっても、それは2015年の今から振り返っての話で、60’sや70’sではなく、車を見たところ80年代半ばすぎの感じ。そこで気にかかるのは、その時代設定にして制作2006年、公開2007年でありながら、アジア人やゲイはおろか、黒人さえほとんど出てこない(パイコンテストの入賞者として1人が数秒出るだけ)。いくら古き良きアメリカをやりたかったとしても、これでは人種構成的に…と、気にかかった。

それはそうと、物語自体はとてもよく出来ていて、「ああそっちに行っちゃうのかな」というラブロマンスもありながら、展開は意外。それから、ロマンティシズムだけに傾倒しない、いい意味での現実感あふれる描写としては、主人公が妊娠しそのお腹の中にいる赤ん坊への思いがある。「オーマイスイートベイビー、私のチェリーパイちゃん」というものでは決してないのが、その人生の描き出し方として、非常によかった。

そういえば、パイは各種が次々出てくる。これを観ると、ああ、パイってアメリカのソウルフードともいえるような存在なのだなあと思う。ちょっと大味だろうなという様は、個人的には観た後すぐパイが食べたい!とはならなかったが、これを好きな人は多いだろう。

総じて言うと、先に述べた人種構成的な話からして星を1つ欠いたが、十二分に楽しめ、観た後ほっとする気分にさせてくれるので、お勧め。因みに監督で、作中に他のウェイトレスDawnとして登場し、作中のパイも自ら作ったAdrienne Shellyは、制作年に他界、本作は遺作となったのだそうだ。パイはただ単に甘い訳ではなかった。(2015/11/3 記)