映画レビュー ベニシアさんの四季の庭



(★★★★★ 星5つ)

イギリスからインドを経て京都の大原に住みつき約40年のベニシア・スタンリー・スミスの暮らしを追ったドキュメンタリー映画。NHKのシリーズ番組で知られるが、より深く、過去の出来事や、通常話しにくいであろう家族をめぐるエピソードも紹介されている。

興味を惹かれたのは彼女の美的なライフスタイルなのだが、おそるべき追求心でもってそれが実現されているのが分かる。しかし、それは執念ではなく、あくまでかろやか。自分の生活を美しくしたい、自分にフィットするように整備したいという気持ちと、共に暮らしあるいは訪れてくる家族に快適なものを提供したいという愛から成り立っている様が、なんとも観ていて気持ち良い。

貴族の出で、一見優雅な半生から「お厭いのない」現在の暮らしを導いているかのように見えるかもしれないが、背負うには重い人生の重荷を背負いつつ、前を向いて生きている。その様が淡々と映画に記録され流されるのだが、生きるとは何か、自分自身でいるとは何か、世界と関わるとは何か、家族とはどういう存在なのか、自分の居場所とは何か、コミュニティと共生するとはどういうことか、そんなこことをこの映画は強く訴えかけてくる。

しかし、まるでハーブの心洗われる清冽な香りのように、スムーズな彼女のタッチ。高貴といってもいいかもしれないそれが、この映画を単なる在日外国人の重いドキュメンタリーでなく、希望を感じさせる基調となっているのだ。生きることの基本に立ち返ることの大切さを知るに好適な作品。(2013/10/1 記)