飲食店レビュー 銀之塔(シチュー 中央区銀座)


(★★★★★ 星5つ)

銀之塔は、昭和30年創業の老舗のシチュー屋。シチュー屋というと洋食屋を思い浮かべるが、しつらえも食も和に適化していて、ここの食事は和食といえるだろう。なので、和食に分類した。銀座中心街の喧騒を抜けた東銀座に、倉のような造りの建物がある。歌舞伎座にも近く、役者でここを贔屓にしていた人もいるとか。

メニューはシンプルで、迷うところがない。注文すると突き出しが出てきて、ほどなくぐつぐつと煮立った小さな土鍋でシチューが来、ご飯と漬け物が一緒に出てくる。シチューはブラウンソース。具ももちろんちゃんと入っているが、シチューソース自体を味わうタイプで、そしてそのソースこそがこの店の肝なのだろう。洋食のシチューは一緒に食べるのがご飯かパンかと言われたら断然パン派なのだが、郷に入っては郷に従えで漬け物、ご飯と共に食べてみる。すると、ちゃんとよく合う。

こういうところは、メニューがシンプルな分、丁寧な仕事がなされていていい。突き出しや漬け物のしみじみとした味わいに、地道な努力を感じることができる。もちろん、シチューの味もそうした努力のうちに確立されたものなのだろう。畳敷きの座敷で食べながら、そうした実直さを感じてシチューを食べるのはなんとも清潔な時間で、なんということもないことをなんということもなく連綿とやるすごさに、背筋を正される思いがする。