ブックレビュー ショーン・タン


アライバル


(★★★★★ 星5つ)

大型本で、セリフや文字に依らず、イラストのみで物語を描き出してある。一応、表紙は日本語になっていて、日本語版ということになるのだろうが、本編には言葉が一切ない作りだから、日本語版を買っても作者の言いたいことを損なうことがない。これはいわば絵による小説だ。漫画ではなく、文学であり、普遍的な物語と言える。

絵の独特な作風やスケール感で退屈させない。絵は、大小問わずどれも丹念に描きこまれている。また、時にダイナミックな表現ではっとさせられたり、繊細さに感銘したりする。愛とか人間性とかいったものを伝え、それを感じ取るのには、言葉は要らない。これを見れば大人も子供も、大事なことを十分に感じ取ることができるが、それは一枚一枚の絵に心がこめられているからだろう。

どんな物語なのかはここでは敢えて書かない。思想や経済といった問題でギスギスしがちな今、故郷を思う人、故郷を失った人、自分に故郷などないと感じる人、愛する人がいる人、愛する人と離れた人、愛する人を失った人、人を愛する気などないと思う人、幸福な人、不幸の只中にいる人、やっと不幸を抜けだしたが折れそうな人、その他どんな人にもこれを一度ぜひ「読んで」味わってもらいたい。(2012/9/27 記)