ユダヤ警官同盟(上)(下)
(★☆☆☆☆ 星1つ)
(★☆☆☆☆ 星1つ)
2007年にヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の三冠制覇という華々しい成果が売りの作品だが、名倒れもいいところ。「SFなんだからウソがあっても、筋運びにねじれがあってもいいじゃないか」という甘えがあるのではないか? そして、サスペンス仕立てで犯人はチェスの名手となっていながら、チェスとはまったく関係のない筋運びをしていて、題材に使った意味がない。
ユダヤ人社会という、一見特殊に見える、風習も考え方も大抵の読者には馴染みのないところを舞台にすれば、そこで展開されることが不可解でもしょうがないだろう、というゴマカシが目立つ。そしてシオニズムや歴史的なユダヤ人の動きを筋にもってこようとして、見事に失敗している。
そしてその筋なのだが、退屈。昔、まだヨーロッパ直行便が少なかった頃、西ドイツに行くのにアンカレッジ空港を経由したことがあるが、アンカレッジ空港から見たような荒涼たる何もなさが延々展開する上巻、そして上巻で広げた風呂敷としての、「アラスカにあるユダヤ人自治州がアメリカに変換される」という架空設定の流れが収拾切れないままブツ切れで終わる下巻。
要するに、上下巻も紙数を費やして何も成果がない。ニヒル(死語)を気取ったセリフのやり取りも読むうちに飽きるし、「だから結局何なんだ」という苛立だけが残る。筆者のマスターベイションもいい加減にしてほしい。こんなものが3つも賞を取るのだから、SFというジャンルはもう死んだと思うしかないのかもしれない。残念至極。