ブックレビュー ヒュー・ハウイー


シフト(上)(下)・ダスト(上)(下)






(★★☆☆☆ 星2つ)

下記の『ウール』のprequelおよびsequel。ただ単に冗長。

「そんな余計な描写はいいから物語を先に進めてくれ」と言いたくなる枝葉末節は多いのに、この上下巻2作品は、『ウール』で綿密に設定された背景を説明するにつけ、読者の想像力を奪っていく。そして描写すればするほど、社会が閉鎖的地下埋没建設物で成り立つにはどうしたってもっと叙述外のインフラが必要なはずなのに、そこは完全にお留守になっていることが物語のリアリティーを殺いでゆくことに繋がり、フラストレーションを感じさせる。

社会を描きながら、世界を破滅に追い込んだ社会の大局的視点と、その後の閉鎖環境で社会が成り立つには何が必要かという俯瞰的視点が欠落し、ただ続編としての登場人物へのフォーカスに終止しているのが気になる。返す返す『ウール』で留めておいた方がよかったのに、と、紙を繰りながらただそう思わせた蛇足の作。『ウール』の展開版は読みたかったが、これら2部4巻ではなかった。

この頃は紙数を詰めて物語を構成するのが苦手な作家が多いのか、それとも出版社の意向で売上を稼ぎたいが故に上下巻にしてしかも三部作を書かせたがっているのか、あるいはその両方なのかは知らないが、これはコマーシャリズムによる創造の抹殺なのかもしれない。(2018/7/28 記)

ウール(上)(下)


(★★★★☆ 星4つ)


(★★★☆☆ 星3つ)

ネット小説で好評を博し、刊行成った作品だという。有毒ガスに覆われた地上は人の住める所でなくなり、人々は「サイロ」と呼ばれる地下144階建の施設に暮らす。重罪人はサイロの市長により「清掃」に出され、サイロの外をうかがうレンズを磨く作業に出されるが、それは生きて帰る者のない極刑だった。しかし…というのがプロット。

それまでの文明が何らかの形で滅び、失われた世界を生き延びた人々が圧縮された世界で生きる様はこれまでのSFにもあった。この作品の機械によって追いやられた人類が機械を使って閉鎖社会を生きる様は『マトリックス』を、政治的駆け引きが渦巻く中で外世界に滅亡文明があることを知りショックを受ける様は『猿の惑星』を思い出させる。しかし、この作品の世界観はそれらの寄せ集めでなく、独自世界を創り出すことに成功している。

食い足りない部分はある。日頃、約1億2千万の人口を持つ日本に暮らしていて、果たしてどの程度の最低人口を擁すれば人の現在の産業や文明レベルを構成・維持することができるのだろうかと考えることがある。この作品の世界は144階建てのサイロに凝縮された世界を描くことから始まるが、その中で本来社会システムを独立で成り立たせるために必要な多くの要素についての記述がはしょられすぎではないかと思うところがある。

もっとリアリティーを持たせて様々な産業・職業に少しでも存在を感じさせる叙述があればいいのに、と思う一方で、下巻は冗長で、主人公のアクション的苦闘に焦点と紙数を費やしすぎている。その辺りがネット小説から生じた俗さ加減かとも思う。映画化を狙ってのプロットかと思われるようなところもあって、その辺の狙いのいやらしさが臭わなくもない。上下巻構成のなか、上巻はぐんぐん惹きつけられたが、下巻のそれは読んでいて残念なところではあった。

しかし総じて独創的で、SF好きなら読んで面白かったと思えるだろう。最近のSFものは、既に何らかの破滅があったことをバックグラウンドにしてその後の世界を描くのがパターン化しているようにも感じる。その点でも手放しで素晴らしいとは言い切れなかったが、物語にすぐ分かるような破綻はない。なので、その点殺がれることはなく、安心して読めた。(2016/4/27 記)