ブックレビュー『ソ連が満州に侵攻した夏』

半藤一利(著)


(★★★★★ 星5つ)

これを読もうと思ったのは、自分のルーツを考えたからだ。Profileのコーナーの「社会的ヒストリー」に書いているように、母方の祖父は満鉄の嘱託医だった。母は1940年にハルビンだかチチハルだかで生まれ、終戦と共に引き揚げた祖父に連れられて内地(日本)に戻ってきたのだが、終戦を迎えた時どういう様子だったのか、また、どんな風にして戻ってきたのか、あまり詳細を聞くことはなかった。そこで、終戦時の満州の状況を今一度よく整理して知っておこうと思ったのだ。祖父の体験については、この本の記述に絡めて後述する。

ソ連の対日参戦については、概況についてもちろん知識はあった。戦後の連合国支配に自国のパイを奪取すべく先鞭をつけておきたいソ連の対外政策事情、ドイツとの激烈な戦争の後ドイツが敗退して今度は極東対抗を急ぐに至ったこと、ヤルタ会談やポツダム宣言。そのあたりは社会的常識として知っていて当然と思うのだが、本書にはそこで虚々実々の駆け引きがどう具体的に行われていたのか、スターリンは何をしようとしていたのかといったことについて、事実に基づいた検証があって実に分かりやすく、明確なイメージを持つには好適。

そして日本の満蒙政策と関東軍がどんな有様だったのか。野卑で、無策で、蒙昧であったことは誰もが知るところと思うが、その様子をさらに具体的に、在満州の軍と大本営との関係を含めて書いていて、鮮やか。最初読む前にこの本を手にした時には、筆者が文藝春秋の編集長だったという経歴から、かなり右寄りな書き方がなされているのではないか、よもや関東軍の片棒を担ぐようなことはしていないだろうかと危惧したが、軍の非については峻厳なる断罪の言葉が冷徹に書かれていて、その公正な目に安心した。

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