ブックレビュー『コクトー詩集』


コクトー(著)


(★★★★★ 星5つ)

言葉を扱うことに多少の自信がある人は、自分が自由に言葉を選び、配列し、操れると思い込んでいるものだ。だが、コクトーほど自由で華麗に操れる人はいない。自分の言語能力に自信を持っている人ほど、コクトーの詩を読むと、自分の才能が如何に限定されて、法則や重力にがんじがらめになっているなかで踊っているだけだったかということを思い知らされる。文学やフランス文化に興味のある人なら10代に誰でも一度はコクトーの詩を読んだことがあるだろうが、ある程度の年齢になってからもう一度じっくり読んでみると、そういう凄さがはっきり分かる。

無数に広がる星空からいくつかのきらめきを選び出して星座を創りだすように、ジュエリーデザイナーが思わぬ石の取り合わせで今まに見なかった輝きをもたらすように、コクトーは自由に言葉を編み、詩を作る。その才能、美は、無限の広がりだ。

そしてその才能を異国の言葉に当てはめる困難な仕事を、堀口大學が、これまた華麗にやってのけている。「私の耳は貝の殻 海の響を懐かしむ」 これだけで鳥肌が立つ。